先日、当社の新築アパートをご購入いただいた会員様から、すでにお持ちの物件の家賃値上げについてご質問をいただきました。
賃貸経営では、家賃収入と、維持管理費や借入返済などの支出とのバランスが大切です。長く保有している物件であれば、現在の家賃と周辺相場に差が出ていることもあるでしょう。
このご質問をきっかけに賃料増額について確認する中で、参考になったのが、楽待新聞で公開されている弁護士・辻田寛人さんの解説動画です。
特に私が意外に感じたのは、「家賃を据え置く合意」と「少額の値上げで合意すること」の両方が、その後の賃料見直しに影響するという点でした。
今回は、この動画を参考に、家賃を見直す前に確認しておきたいことを整理します。
新築と、すでに貸している物件では家賃設定の前提が違う
新築アパートでは、募集する時点の家賃相場を踏まえて賃料を設定できます。
建築費や金利が上がれば収支への負担は増えますが、その時点の相場に見合う家賃を事業計画に織り込めるため、採算を検討しやすい面があります。
私が新築の利回りを考えるうえで重視しているのも、この点です。もちろん、想定した家賃で入居が決まるか、建築費や借入条件とのバランスが取れるかという確認は欠かせません。
一方、すでに入居者がいる物件には、これまでの契約と合意があります。
周辺相場が上がったとしても、新築の募集家賃を設定するのと同じように、既存の家賃を決め直せるわけではありません。
この違いを押さえることが、今回の話の出発点です。

周辺の募集家賃まで、当然に上げられるわけではない
動画では、「募集賃料」「新規賃料」「継続賃料」を分けて説明しています。
募集賃料は、貸し手が募集時に提示する金額。新規賃料は、新しい借り手との契約で決まる金額です。
これに対して、すでに契約している相手との間で見直す家賃は、継続賃料の問題になります。
「近隣ではこの金額で募集している」という情報は大切ですが、それだけで既存の契約を同じ金額に変更できるわけではありません。
借地借家法32条では、税負担や経済事情の変化、近隣の同種建物の賃料などによって、現在の賃料が不相当となった場合の増減額請求を定めています。
家賃が変わっていなくても、合意の時点は変わることがある
動画の中心となるのが、「直近合意時点」という考え方です。
これは、現在の賃料について、最後に実質的な合意をした時点を指します。
私がまず意外に感じたのは、増額や減額をした場合だけでなく、話し合った結果として「今回は据え置きにしましょう」と合意した場合も、新たな合意と評価され得ることでした。
家賃の金額が長年変わっていなければ、最初の契約時からの変化を基準に考えたくなります。
しかし、その途中で据え置きの合意をしていれば、見直しの出発点が変わっている可能性があるということです。
一方、動画では、賃料について協議せず、従来の金額を更新書類に記載しただけの場合とは区別しています。
確認すべきなのは、金額の履歴だけではありません。
更新時に何を話し、何を合意したのか。過去のやり取りまで振り返る必要があります。
「少しでも上がればよい」と決める前に
もう一つ意外だったのが、少額の増額で合意することにも、その後への影響があるという点です。
増額を提案しても希望どおりにまとまらなければ、「少しでも上がるなら、今回はそれでよい」と考えることもあるでしょう。
ただ、その合意が、次の賃料見直しの基準にもなります。
長年の経済事情の変化を十分に反映しない金額で合意すれば、その水準が将来の交渉にも影響するという説明でした。
ここは、「少額の値上げはすべて避けるべき」と受け取らないことも大切です。
動画では、適正な水準でこまめに改定することには意味があると説明しています。
長期間据え置いてから大幅な増額を求めれば、入居者の負担感も大きくなります。
今回いくら上がるかだけでなく、これまでの変化をどこまで反映した金額なのか。その視点で合意内容を考える必要があります。

更新書類も、交渉の経緯と合わせて確認する
増額の話し合いが続いている途中で、契約更新の時期が来ることもあります。
その際、従来の賃料を記載した更新書類を取り交わせば、後から「その金額で据え置くことに合意した」と争われる可能性があります。
動画では、賃料について協議中であることや、書類の作成が新たな賃料合意を意味しないことを、明確に残す考え方が紹介されています。
ただし、特定の一文を入れれば必ず解決するわけではありません。実際の交渉経緯や契約内容も関係します。
更新書類を作らない選択についても、自動更新条項や更新料との関係など、別の検討事項があります。
書類だけを切り離して考えず、契約条件とやり取りの経緯を一緒に確認することが大切です。
現時点の結論

今回、会員様からのご質問をきっかけに、家賃の見直しには、周辺相場や増額幅だけでは捉えられない論点があると感じました。
新築では、募集時点の相場を踏まえて家賃を設定できます。一方、すでに貸している物件では、それまでの合意の積み重ねが見直しに影響します。
特に、「据え置きだから何も変わっていない」「少しでも増額できればよい」と、金額だけで判断しないこと。
まずは、現在の家賃を最後に合意した時点と、その後の事情の変化を確認する。そのうえで、適正な水準と入居者に説明できる根拠を整理する。
私自身、収益物件を見る際には、現在の家賃だけでなく、その家賃がどのような経緯で決まっているのかにも目を向けたいと感じました。
参考:楽待新聞「【賃料増額丸わかり】10年前の家賃なら3割増も、『少しの値上げで合意』が危ない理由」
今回のように、不動産の購入や運用についてご質問があれば、個別にお答えしています。また、ほかの会員様にも参考になる内容は、ご相談者様のプライバシーに配慮しながら、ブログでもご紹介していきたいと考えています。
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