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人口減少を嘆かない――日本の住宅メーカーに学ぶ「縮小市場」の生き残り方

日本の住宅市場は、長期的に見れば縮小していく可能性が高い。

人口は減少している。

世帯数も、いずれ減少に転じる。

新設住宅着工戸数も、1996年のピーク時と比べれば半分以下の水準まで落ち込んでいます。

普通に考えれば、国内で家を建てて売る住宅メーカーにとって、決して明るい市場ではありません。

ところが今、日本の大手住宅メーカーは戸建て事業を拡大しています。

主戦場は、日本ではありません。

アメリカです。

住友林業、積水ハウス、大和ハウス工業の大手3社が、アメリカで年間に引き渡す戸建て住宅は、合計で約4万戸規模に達しています。

すでに3社が日本国内で供給する戸数の合計を上回っているともいわれます。

「日本の住宅市場は縮小しているのに、なぜアメリカでは伸ばせるのか」

今回は、この動きから不動産事業者や投資家が学ぶべきことを、私なりに考えてみます。

「日本の家」が売れているわけではない

最初に、少し整理しておきます。

アメリカで、日本と同じ戸建て住宅がそのまま大量に建てられているわけではありません。

実際に起きているのは、日本の住宅メーカーがアメリカの現地ビルダーを買収し、米国市場で住宅を供給する側に回っている、ということです。

現地企業のブランドを残し、現地の経営陣を活用し、現地の工法で住宅を建てる。

つまり、商品を日本から輸出しているというより、住宅事業そのものを海外へ移しているのです。

ここは非常に重要です。

日本の大手住宅メーカーは、人口が減少する国内市場だけで成長しようとはしていません。

住宅需要のある国へ行き、現地の会社を買い、現地の市場に合わせて事業を作り直しています。

日本企業による「静かな買収」が進んでいた

日本企業のアメリカ進出は、突然始まったものではありません。

住友林業は2003年に米国の戸建て事業へ参入しました。

当初は、シアトルで年間100戸にも満たない小規模な事業からスタートしています。

その後、リーマン・ショック後の市場環境を見ながら、現地の住宅会社を少しずつ買収してきました。

積水ハウスや大和ハウスも、同様に現地ビルダーの買収を進めています。

特にここ数年は、買収金額も一気に大型化しました。

積水ハウスは2024年、米国の大手住宅会社M.D.C.ホールディングスを約49億ドルで買収。

住友林業も、米トライ・ポイント・ホームズの買収を発表し、年間引き渡し戸数で全米上位に入る規模を目指しています。

日本企業は、いきなり巨大市場へ乗り込んだのではありません。

小さく入り、現地企業を理解しながら買収を重ね、10年以上かけて規模を拡大してきたのです。

この慎重さは、いかにも日本企業らしいともいえます。

アメリカには住宅が足りない

では、なぜアメリカなのでしょうか。

最大の理由は、住宅の供給不足です。

アメリカでは、リーマン・ショック後に多くの住宅会社が着工を減らしました。

新築住宅を建てても、価格の下がった中古住宅に勝てなかったからです。

着工数が減った結果、住宅会社だけでなく、職人や施工会社などの供給能力そのものが縮小しました。

ところが、その後は人口が増加し、ミレニアル世代やZ世代が住宅を購入する年齢に入ってきました。

需要が戻ったにもかかわらず、供給能力は簡単には元に戻りません。

現在も、アメリカでは数百万戸規模の住宅が不足しているといわれています。

人口が減り、空き家が増えていく日本とは、前提条件がまったく違います。

ただし、ここで注意が必要です。

住宅が不足しているからといって、どんな価格の家でも売れるわけではありません。

住宅価格が上がり、ローン金利も高止まりしているため、購入者が実際に払える金額との間に大きなズレが生まれています。

不動産は、需要があるだけでは売れません。

最終的には、買い手の所得、金利、月々の返済額に対して、価格が適正であるかどうかが重要です。

これは日本の賃貸住宅でも同じです。

駅から近い、設備が良い、新築である。

そうした条件がそろっていても、家賃が適正でなければ入居は決まりません。

反対に、駅から多少距離があっても、物件の価値と家賃が釣り合っていれば入居者は見つかります。

住宅不足という強い市場であっても、「適正価格」という基本は変わらないのです。

日本企業の武器は「低い資金調達コスト」

現在のアメリカでは、住宅ローンだけでなく、事業者が土地を取得するための借入金利も高くなっています。

現地の中小ビルダーにとっては、土地を仕込むだけでも大きな負担です。

金利負担に耐えられず、事業を縮小したり、会社の売却を検討したりするケースも増えています。

そこへ日本企業が入っています。

日本企業は、日本の金融機関や親会社の信用力を使って資金を調達できます。

現地企業単独で融資を受けるより、資金調達面で有利になる可能性があります。

つまり、日本企業は住宅を建てる技術だけで勝っているのではありません。

資金調達力と長期的な投資余力を使い、金利上昇で弱った現地企業を買収しているのです。

不動産事業において、資金調達力が競争力になる典型的な事例だと思います。

市場が悪化したとき、手元資金がない会社は守りに入らざるを得ません。

一方で、資金に余裕のある会社にとっては、市場の悪化が買収や仕入れのチャンスになります。

これは、私たちのような中小不動産会社にも通じる話です。

市況が良いときに利益をすべて使ってしまうのか。

それとも、次の不況で動けるように現金と借入余力を残しておくのか。

不動産事業では、この差が数年後に大きく表れます。

「現地主義」と「日本式輸出」に分かれる戦略

日本の大手3社は、同じアメリカ市場を狙っていますが、戦い方は同じではありません。

住友林業と大和ハウスは、現地企業のブランドや経営手法を尊重する現地主義を採っています。

アメリカでは、2インチ×4インチの木材を使う、いわゆる2×4工法が広く普及しています。

部材の規格が標準化され、窓やドアなども一般的なホームセンターで調達できます。

住宅会社独自の部材や工法を使う日本とは、住宅づくりの考え方が根本的に違います。

そのため、住友林業と大和ハウスは、日本式の住宅をそのまま持ち込むのではなく、現地企業に現地の住宅を建ててもらっています。

ただし、任せきりではありません。

住友林業は、部材を工場で生産し、3D設計などを使って施工を効率化する仕組みを導入しています。

大和ハウスも、傘下企業の資材や住宅設備をまとめて発注し、調達コストを下げようとしています。

現地の商品を変えすぎず、経営や生産の効率を改善する。

いわば、日本企業の管理能力を輸出しているのです。

一方、積水ハウスは少し違います。

現地企業を買収しながら、日本で培った独自工法もアメリカへ持ち込もうとしています。

大きな窓や開放的な空間を実現し、中高価格帯の顧客へ付加価値の高い住宅を販売する戦略です。

これは成功すれば大きいですが、難易度も高いと思います。

アメリカでは、日本よりも頻繁に家を住み替えます。

一生住む家として購入するというより、数年後に売却することを前提に家を買う人が多い。

その市場で、価格の高い独自工法の住宅がどこまで評価されるのか。

住宅性能やデザインが高くても、中古として売却しにくければ購入者は慎重になります。

良い商品を作れば売れるとは限らない。

その市場で何が評価されるのかを理解しなければ、技術力が逆にコスト負担になる可能性もあります。

足元の米国市場は決して楽ではない

アメリカの住宅市場には大きな可能性があります。

しかし、現在の事業環境が順調というわけではありません。

住宅価格はコロナ禍前から大幅に上昇しました。

30年固定の住宅ローン金利も高い水準が続いています。

購入者は家を欲しくても、毎月の返済額が大きすぎて買えません。

そこで住宅会社は、買い手の金利負担を軽くする「レートバイダウン」や、各種インセンティブを提供しています。

表面上の販売価格を維持しながら、実質的には値引きをしているような状態です。

当然、利益率は下がります。

さらに、移民政策の影響で建設現場の職人不足が深刻になれば、建築費や工期にも影響します。

住宅不足だから、住宅会社が簡単に儲かるわけではありません。

需要がある市場でも、金利、土地価格、人件費、販売価格のバランスが崩れれば利益は出ない。

むしろ市場規模が大きい分、判断を間違えたときの損失も大きくなります。

日本企業がアメリカへ向かう本当の理由

私は、日本企業がアメリカへ向かう最大の理由は、単に人口が増えているからではないと思います。

国内市場だけに依存しない経営体制を作るためです。

日本国内の住宅市場が縮小すると分かっているなら、企業には大きく3つの選択肢があります。

国内でシェアを奪う。

住宅以外の事業へ進出する。

海外へ市場を広げる。

大手住宅メーカーは、そのすべてを進めながら、海外事業を将来の柱にしようとしています。

住友林業では、すでに米国の住宅事業が利益の大きな部分を占めるまでになっています。

人口減少を嘆きながら、国内市場が回復するのを待っているわけではありません。

需要のある市場へ自分たちから移動しているのです。

私たちが学ぶべきこと

この話は、大手住宅メーカーだけの話ではありません。

中小の不動産会社や投資家にも、多くの示唆があります。

1つ目は、市場規模よりも需給を見ることです。

人口が増えている地域でも、価格が高すぎれば売れません。

人口が減っている地域でも、供給が少なく、適正な家賃で提供できれば入居は決まります。

「人口が増えているから買う」

「駅から近いから買う」

「新築だから買う」

それだけでは足りません。

誰が、いくらなら借りるのか。

誰が、どの返済額なら買えるのか。

最終的には、そこまで落とし込む必要があります。

2つ目は、資金調達力を経営資源として考えることです。

不動産事業では、物件を見る力だけでなく、不況時にも買える財務体質が重要です。

市場が悪化したときに、資金繰りに追われるのか。

それとも、安くなった会社や土地を買いに行けるのか。

好況時の利益の使い方が、不況時の立ち位置を決めます。

3つ目は、自社の強みをそのまま押しつけないことです。

日本で成功した商品や手法が、別の地域でも通用するとは限りません。

地域が変われば、顧客も商習慣も金融環境も違います。

大和ハウスや住友林業が現地ブランドを残しているのは、住宅が極めて地域性の強い商品だからです。

私たちの事業でも同じです。

東京都内で決まった間取りや家賃設定が、埼玉や千葉で同じように通用するとは限りません。

自分たちの成功体験より、その地域で実際に選ばれている商品を見る必要があります。

国内市場が縮小しても、会社まで縮小する必要はない

日本の住宅市場が縮小していく可能性は高いと思います。

しかし、市場が縮小することと、すべての住宅会社が縮小することは同じではありません。

市場が変わるなら、扱う商品を変える。

地域を変える。

顧客を変える。

事業の持ち方を変える。

日本の大手住宅メーカーは、国内で培った資金力、管理力、施工ノウハウを使い、人口が増えるアメリカへ事業を移しています。

ただし、日本式をそのまま持ち込めば成功するほど、海外市場は簡単ではありません。

現地に合わせながら、どの部分に自社の強みを入れるのか。

その見極めが問われています。

これは、海外進出をしない私たちにも関係する話です。

不動産市場が変化するなかで、

「以前はこれで売れた」

「駅から近ければ決まる」

「新築なら満室になる」

という過去の成功体験だけに頼ることはできません。

大切なのは、市場の変化を受け入れ、その市場で求められている価格と商品を提供することです。

住宅不足が続くアメリカでも、人口が減少する日本でも、最後に選ばれるのは、顧客にとって価格と価値のバランスが取れている住宅です。

結局のところ、不動産事業の基本は変わりません。

どこでやるか。

誰に売るか。

いくらなら選ばれるか。

その方向性を致命的に間違えないこと。

日本の大手住宅メーカーによるアメリカ進出は、縮小市場を生き抜くための一つの答えを示しているのではないでしょうか。

著者プロフィール

Lidix

ライディックス株式会社 代表 山上 晶則

東京都で不動産会社を経営しています。
将来的に不動産経済がどうなるかは、あくまでも二次的な要因が大きいため、「国内外の政治経済や金融」、「異業種で成功している事例」などを分析することを得意としています。

このブログでは、現在の経済状況を自分なりに読み解き、時代に合った経営や様々な投資、そして、「何かに依存しない生き方」を求めて日々勉強している内容をアウトプットするために書いています。



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