以前の記事で、日本全体の人口が減少する一方、東京では人口と世帯数が増えていると書きました。
特に重要なのは、人口だけでなく世帯数を見ることです。
人口が減少しても、一人暮らしや二人暮らしが増えれば、住戸を必要とする世帯は増える可能性があります。
実際、東京では単身世帯が増えており、今後もコンパクトな賃貸住宅には一定の需要が続くと考えています。
ただし、
東京に賃貸需要があることと、どの物件でも何もしなくてよいことは別の話です。
同じ東京の物件でも、立地、家賃、広さ、設備によって、入居者から選ばれる物件と選ばれない物件に分かれます。
また、若い単身者だけを対象にするのか、それとも入居者層を少し広げるのかによっても、空室期間は変わってきます。
今回は、入居者の幅を広げる方法の一つとして、単身高齢者の受け入れについて考えてみます。
今後増えるのは、高齢者を含む単身世帯
| 項目 | 2020年 | 2050年 |
|---|---|---|
| 単身世帯の割合 | 38.0% | 44.3% |
| 65歳以上の単身世帯 | 約738万世帯 | 約1,084万世帯 |
国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、全世帯に占める単身世帯の割合は、2020年の38.0%から、2050年には44.3%まで上昇する見込みです。
世帯数にすると約2,330万世帯です。
さらに注目したいのが、65歳以上の単身世帯です。
2020年には約738万世帯でしたが、2050年には約1,084万世帯まで増加すると予測されています。
全国の人口は減少する。
しかし、その一方で単身世帯は増え、その中でも高齢者の割合が高まっていく。
これが、これからの賃貸市場で起きる大きな変化です。
もちろん、東京では若い単身者の賃貸需要も引き続き期待できます。
しかし、入居希望者を若い会社員や学生だけに限定する必要があるのかは、改めて考えてもよいと思います。
実際、賃貸管理の現場では、80歳を超える方から入居の問い合わせを受けることも珍しくなくなっています。
約半数の管理会社が高齢者の入居を断っている
アットホーム株式会社が2026年6月に発表した「高齢者の賃貸居住に関する調査」によると、直近1年間に、高齢であることを理由に入居を断った経験がある管理会社は49.2%でした。
ほぼ2社に1社です。
さらに、入居を断った理由には、オーナーの意向が強く影響しています。
「オーナーの意向」が40.2%、「オーナーと管理会社の両方の意向」が45.3%となっており、合計すると8割を超えます。
つまり、管理会社だけが高齢者の入居に消極的なのではありません。
物件を所有するオーナー自身が、高齢者の受け入れに不安を感じていることが分かります。
では、オーナーや管理会社は、何を心配しているのでしょうか。
最大の不安は「孤独死」
単身高齢者の入居に関して、管理会社が課題だと感じていることの1位は「孤独死」で、84.0%でした。
次いで、
- 事故物件になること:38.4%
- 残置物の処理:37.0%
となっています。
単身の高齢者が室内で亡くなり、発見までに時間がかかれば、特殊清掃や大規模な原状回復が必要になる可能性があります。
次の入居者募集に影響し、募集期間が長くなったり、家賃を下げざるを得なくなったりすることも考えられます。
さらに、室内に残された家具や生活用品を誰が処分するのかという問題もあります。
相続人や緊急連絡先と連絡が取れなければ、管理会社やオーナーの負担が大きくなる可能性があります。
こうしたリスクを考えれば、オーナーが高齢者の入居に慎重になるのは理解できます。
単なる偏見だけで断っているのではなく、実際に発生し得る損失を心配しているのです。
ただし、ここで考えたいのは、
リスクがあるから一律に断ることが、本当に合理的なのか
ということです。
高齢者は長期入居が見込める層でもある
同じ調査では、60歳以上の賃貸入居者の48.6%が、賃貸住宅への住み替えに消極的だと回答しています。
住み替えたくない理由としては、
- 引っ越し費用が負担になる:27.8%
- 現在の住まいや地域に愛着がある:25.0%
- 荷物の整理や手続きが大変:23.6%
といった回答が上位に挙がっています。
入居者側から見れば、年齢を重ねてからの引っ越しには、費用だけでなく体力的な負担もあります。
新しい地域で生活を始めることにも不安があると思います。
一方、賃貸経営の視点から見ると、一度入居した後は、比較的長く住んでもらえる可能性があります。
若い単身者の場合、卒業、就職、転勤、結婚などをきっかけに、数年で退去することがあります。
退去が発生すれば、原状回復費用、募集期間中の家賃損失、仲介会社へ支払う広告料などがかかります。
家賃を高く設定できたとしても、短期間で入退去が繰り返されれば、オーナーの実際の収益は安定しません。
反対に、適正な家賃で長く住んでもらえれば、入れ替えに伴う費用を抑えられます。
高齢者には特有のリスクがあります。
しかし同時に、
条件が合えば、長期入居が見込める層でもある
ということです。
「受け入れるか、断るか」の二択ではない
入居前の確認
↓
保証会社・緊急連絡先
↓
見守りサービス
↓
異変時の連絡体制
↓
孤独死保険・残置物対応
↓
安心できる長期入居
高齢者の入居を考えるとき、無条件で受け入れるか、年齢だけで断るかという二択にする必要はありません。
僕が重要だと思うのは、
どのような条件を整えれば、オーナー、管理会社、入居者の全員が安心できるのか
を考えることです。
年齢だけを見るのではなく、家賃の支払い能力、緊急連絡先、保証会社の審査、家族との連絡状況、必要な支援体制などを確認する。
そのうえで、見守りサービスや保険を組み合わせる。
何も対策をせずに受け入れることと、リスクを想定して受け入れることは、まったく違います。
見守りサービスで早期発見につなげる
高齢者向けの見守りサービスを認知している管理会社は90.1%に達しています。
一方で、実際に導入している物件があると回答した管理会社は19.5%にとどまりました。
サービス自体は広く知られているものの、費用などが壁となり、導入までは進んでいないのが現状です。
最近の見守りサービスには、室内をカメラで撮影するものだけでなく、次のような仕組みがあります。
- 電気や水道の使用状況を確認する
- 玄関ドアの開閉をセンサーで検知する
- 室内で一定時間動きがない場合に通知する
- Wi-Fi電波の反射などを利用して人の動きを確認する
室内を直接撮影しないため、入居者のプライバシーにも配慮できます。
ここで重要なのは、見守りサービスによって孤独死そのものを完全に防げるわけではないということです。
しかし、異変を早く把握し、発見までの時間を短くすることはできます。
早期に対応できれば、入居者の安全につながるだけでなく、物件へのダメージや原状回復費用を抑えられる可能性があります。
家主型の孤独死保険を検討する
もう一つの対策が、オーナーが加入する家主型の孤独死保険です。
商品によって内容は異なりますが、一般的には次のような費用を補償するものがあります。
- 特殊清掃費用
- 原状回復費用
- 遺品や残置物の整理費用
- 事故後の空室による家賃損失
- 家賃を下げた場合の一定期間の損失
月額数百円程度から加入できる商品もあります。
もちろん、保険に加入すればすべての損失が補償されるわけではありません。
補償金額の上限、免責期間、対象となる事故、家賃損失の補償期間などは、商品ごとに異なります。
そのため、加入前には補償内容を具体的に確認する必要があります。
それでも、万が一の損失を一定の範囲に抑えられるという点では、検討する価値があります。
契約時の準備も重要になる
見守りサービスと孤独死保険だけで、すべての問題が解決するわけではありません。
実際に高齢者を受け入れるのであれば、契約時の準備も必要です。
例えば、
- 確実に連絡が取れる緊急連絡先を確認する
- 高齢者の入居に対応した保証会社を利用する
- 親族や支援者との連絡方法を決める
- 残置物の取り扱いについて契約内容を整理する
- 異変があった場合の管理会社の対応手順を決める
- 見守りサービスの通知先を明確にする
といった項目が考えられます。
オーナーだけで判断するのではなく、管理会社、保証会社、保険会社などと相談し、最初に役割分担を決めておくことが重要です。
高齢者だから断るのではなく、受け入れるための条件を具体的にする。
この考え方であれば、オーナー側の不安も減らせると思います。
費用ではなく、長期入居とのバランスで考える
調査では、管理会社の49.1%が、見守りサービスや孤独死保険について「条件次第で導入したい」と回答しています。
導入が進まない理由の一つは、費用負担です。
確かに、見守りサービスや保険を導入すれば、毎月または毎年の費用が発生します。
しかし、賃貸経営では、その費用だけを見て判断するべきではありません。
仮に月額数千円の費用が発生したとしても、それによって入居者の対象を広げられ、長く住んでもらえるのであれば、空室期間や入れ替え費用を抑えられる可能性があります。
反対に、費用を避けるために入居を断り、空室が長期化すれば、それ以上の家賃収入を失うことになります。
大切なのは、
見守りや保険にいくらかかるかではなく、長期入居によってどの程度の収益を確保できるか
を含めて考えることです。
すべての物件で高齢者を受け入れる必要はない
ここまで書いてきましたが、僕はすべての物件で高齢者を積極的に受け入れるべきだとは考えていません。
階段しかない建物の上階や、病院やスーパーから離れた物件など、高齢者の生活に向かない場合もあります。
入居者本人が無理なく生活できるかどうかも、重要な判断材料です。
一方で、
- 低層階の部屋
- スーパーや医療機関が近い
- バスや鉄道を利用しやすい
- 室内の段差が少ない
- 管理会社が異変に対応できる
- 適正な家賃で長く暮らせる
といった条件がそろっていれば、高齢者から選ばれやすい物件になる可能性があります。
つまり、年齢だけで判断するのではなく、
その物件が、高齢者にとって無理なく暮らせる住まいなのか
を考える必要があります。
高齢者入居も、空室対策の一つの選択肢になる
東京では、今後も一定の賃貸需要が続くと僕は考えています。
人口と世帯数が増え、若い単身者も集まっているため、日本全国を一括りにして「人口減少だから賃貸経営は厳しい」と考える必要はありません。
ただし、
「東京だから大丈夫」
「若い入居者を待っていれば大丈夫」
という判断だけでは足りません。
同じ東京でも物件の条件は異なり、入居者から選ばれる理由も異なります。
今後、単身世帯の中で存在感が大きくなるのが高齢者です。
高齢者には、孤独死や残置物などのリスクがあります。
一方で、一度入居すれば、長く住んでもらえる可能性もあります。
高齢者を無条件で受け入れる必要はありません。
しかし、年齢だけを理由に一律に断るのではなく、緊急連絡先、保証会社、見守りサービス、保険、残置物への対応などを組み合わせ、どのような条件なら受け入れられるかを考える。
僕は、これも東京の賃貸経営における現実的な空室対策の一つだと考えています。
これからの賃貸経営で重要になるのは、リスクを避け続けることではありません。
想定されるリスクを把握し、管理できる形に変えたうえで、入居者の選択肢を広げていくことです。
高齢者入居は、そのための一つの方法になると考えます。
※本記事内の調査データは、アットホーム株式会社が2026年6月18日に発表した「高齢者の賃貸居住に関する調査」を参考にしています。



