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管理会社が家賃を持ったまま倒産したら?――「全東信」破綻から大家が考えるべきこと

不動産賃貸業をしていると、どうしても物件そのものに目が向きます。

立地はどうか。

入居率は維持できるか。

金利が上がっても返済できるか。

大規模修繕に耐えられるか。

もちろん、どれも重要です。

ただ、今回の「全東信」の破綻を見て、改めて考えておきたいリスクがあります。

それは、

家賃がオーナーの口座へ届くまでの「資金の通り道」が止まるリスク

です。

管理会社が入居者から家賃を回収した後、オーナーへ送金する前に倒産したらどうなるのか。

今日は、全東信の事例を不動産賃貸業に置き換えながら、大家が確認しておくべきことを考えてみたいと思います。

帳簿上は黒字でも、現金がなければ会社は倒れる

全東信は、クレジットカードを利用した店舗に対して、カード会社から代金が入金される前に立替払いを行う事業を展開していました。

店舗側からすれば、売上代金を早く受け取れる便利なサービスです。

一方、全東信側は、カード会社から入金されるまでの間、店舗に支払うための巨額の資金を用意しなければなりません。

その資金の多くを金融機関からの借入で賄っていたとされています。

破産申立書では、金融債権者は63社、借入総額は約1130億円と報じられています。

数字だけを見ても、かなり借入依存度の高いビジネスだったことが分かります。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、主要顧客である飲食店のカード決済が減少しました。

しかし、売上が減っても、借入金の利息や元本返済、人件費などの支払いは止まりません。

これは不動産賃貸業でも同じです。

空室が増えて家賃収入が減っても、金融機関への返済、固定資産税、保険料、管理費、共用部の水道光熱費は待ってくれません。

収入は変動する。

しかし、支出の多くは固定されている。

この構造を理解せず、平常時の数字だけで経営を判断すると、少し環境が変わっただけで資金繰りが苦しくなります。

全東信の本当の問題は、借金の多さだけではない

全東信の破綻を、

「コロナで業績が悪化した会社が、多額の借金を返せなくなった」

とだけ捉えると、本質を見誤ります。

報道によると、全東信では預金残高の水増しや架空債権の計上、実質的な価値が乏しい営業権の計上、加盟店への未払金の未計上などが行われていた可能性があるとされています。

2026年3月期の決算書上は、約24億8000万円の純資産があるように見えていました。

しかし、それらを修正すると、実態は約605億円の債務超過だった可能性があるとも報じられています。

帳簿上は資産がある。

帳簿上は黒字に見える。

しかし、実際には現金がなく、返済できる状態でもない。

これは不動産賃貸業でも、決して他人事ではありません。

減価償却によって税務上は利益が抑えられていても、借入金の元本返済は現金で行われます。

反対に、決算書上は利益が出ていても、手元の現金が減り続けていることもあります。

だから私は、賃貸経営を見るときに、表面上の利益だけではなく、

  • 実際にいくら現金が残っているか
  • 元本返済後のキャッシュフローがどうなっているか
  • 空室や金利上昇に耐えられるか
  • 突発的な修繕が発生しても資金が回るか

を見ることが重要だと考えています。

金融機関への不正は「信用」という資産を失う

不動産投資の世界でも、過去にはさまざまな資料偽装が問題になりました。

実際の売買価格と異なる契約書を金融機関へ提出する。

空室を入居中に見せかける。

家賃や入居率を水増しする。

預金残高や自己資金の資料を偽装する。

他の金融機関からの借入を隠す。

一時的には、それによって融資が通ることがあるのかもしれません。

しかし、それは融資のテクニックではありません。

金融機関の判断を誤らせる不正です。

金融機関が融資審査で最も重視するのは、貸したお金が返ってくるかどうかです。

その判断材料となる資料が偽造されていたと分かれば、その案件だけでは終わりません。

過去に提出した資料、保有物件、関連法人、取引履歴まで、すべて疑われることになります。

新規融資が止まる。

既存融資が精査される。

追加担保を求められる。

契約内容によっては、一括返済を求められる可能性もあります。

不動産賃貸業は、長期借入によって成り立つ事業です。

金融機関からの信用を失えば、新しい物件を買えなくなるだけではありません。

既存物件の修繕資金や運転資金の調達にも影響します。

信用は決算書に載りません。

しかし、不動産会社や大家にとって、間違いなく重要な経営資産です。

悪い数字を隠すことよりも、原因と改善策を整理して、早い段階で金融機関へ説明する。

その積み重ねが、長期的な信用につながるのだと思います。

借金が会社を倒すのではない

今回の件を見て、

「やはり借金は怖い」

と感じた方もいると思います。

ただ、私は借金そのものが悪いとは考えていません。

不動産賃貸業も、金融機関から資金を借りて土地や建物を購入し、家賃収入から返済していく事業です。

重要なのは、

借りたお金が、どれだけの現金を生み出しているか

です。

新しい収益物件を購入するための借入と、既存事業の赤字を埋めるための借入は、同じ借入でも意味がまったく違います。

税金や借入金の返済、日常的な修繕費、赤字物件の運営費を、新たな借入で補う状態が続いているのであれば、事業そのものが現金を生み出していない可能性があります。

その場合は、新しい借入を増やす前に、

支出を見直す。

空室を埋める。

適正な範囲で家賃を見直す。

管理費や修繕費を精査する。

それでも改善しない物件は、売却も検討する。

こうした判断が必要になります。

問題を先送りしても、経営状態が自然に改善するとは限りません。

むしろ、金利や修繕費が上昇している現在は、決断を遅らせるほど選択肢が減っていく可能性があります。

大家にとって最も近いのは「管理会社からの送金停止」

全東信を利用していた店舗では、顧客がクレジットカードで支払った売上があるにもかかわらず、そのお金が店舗へ入金されない事態が起きました。

売上は発生している。

しかし、現金が届かない。

それでも仕入代金や人件費、店舗家賃、借入金の返済日はやってきます。

これを不動産賃貸業に置き換えると、最も近いのが、

管理会社が入居者から家賃を回収した後、オーナーへ送金する前に倒産するケース

だと思います。

入居者は、すでに家賃を支払っています。

入居者側に未払いがあるわけではありません。

しかし、管理会社の口座で資金が止まれば、オーナーの口座には入金されません。

それでもオーナーには、ローン返済、固定資産税、修繕費、保険料などの支払いが発生します。

登録賃貸住宅管理業者には、入居者から受け取った家賃や敷金などを、自社の財産と分けて管理する義務があります。

ただし、分別管理の制度があるからといって、倒産時にすべてのお金が必ず戻ってくるとは限りません。

さらに管理会社が倒産すると、止まるのは家賃送金だけではありません。

入居者からの問い合わせ。

設備故障の修繕手配。

家賃滞納への対応。

契約更新。

退去立会い。

原状回復。

新しい入居者の募集。

こうした実務も、同時に止まる可能性があります。

管理会社は単なる外注先ではありません。

家賃収入と物件運営をつなぐ、重要な資金と情報のインフラです。

「2カ月家賃が入らない」試算をしているか

私は、物件を保有するときには、空室率や修繕費、金利上昇を想定したシミュレーションが必要だと考えています。

そこに、もう一つ加えてほしい項目があります。

管理会社から2カ月間、家賃が送金されなかった場合でも返済できるか

という試算です。

例えば、毎月の家賃収入が250万円の物件であれば、2カ月送金が止まると500万円の入金がなくなります。

しかし、金融機関への返済や固定資産税、修繕費などの支払いは続きます。

普段は黒字の物件でも、入金のタイミングがずれただけで、資金繰りが詰まる可能性があります。

賃貸経営では、少なくとも借入返済を含めた固定支出の数カ月分は、すぐに動かせる現金として確保しておくべきです。

どの程度の現金が必要かは、物件数、借入額、修繕リスク、管理会社への依存度によって異なります。

ただ、余った現金をすべて次の物件購入に使い、手元資金がほとんど残っていない状態は、規模が大きくなるほど危険です。

資産があることと、今月の支払いができることは別の話です。

管理会社が倒産しても、不動産そのものは残る

全東信のケースと不動産賃貸業には、大きな違いもあります。

管理会社が倒産しても、土地や建物が消えるわけではありません。

入居者との賃貸借契約も、基本的には残ります。

早急に新しい管理会社を決め、入居者へ新しい家賃振込先を案内できれば、将来の家賃収入を再開することは可能です。

これは、実物資産である不動産の強みです

ただし、不動産が残っているから安心とは限りません。

売却しようとしても買い手がいない。

売却価格が借入残高を下回る。

多額の修繕費が必要になる。

周辺の賃貸需要が大きく減少する。

こうした物件では、建物が存在していても、十分な換金価値や収益力があるとは限りません。

だからこそ、購入時には表面利回りだけではなく、

売却できる立地か。

適正家賃で入居が決まるか。

特定の企業や大学だけに需要を依存していないか。

修繕費を含めても現金が残るか。

という視点が必要になります。

戸数が多ければ、リスク分散になるとは限らない

全東信には、3万店を超える加盟店があったと報じられています。

取引先が3万店もあれば、リスクは十分に分散されているように見えます。

しかし、加盟店の多くが飲食店だったため、コロナという共通要因によって、取扱高が一斉に減少しました。

不動産でも同じことが起こります。

100戸の物件を所有していても、その入居需要が近隣の一つの大学や工場、企業に依存していれば、本当の意味で分散されているとは言えません。

その大学が移転する。

工場が閉鎖される。

企業が社宅制度を廃止する。

そうなれば、複数の部屋が同時に影響を受けます。

大切なのは、戸数の多さだけではありません。

その入居需要が、どこから生まれているのかを見ることです。

物件が健全でも、資金の通り道が止まれば苦しくなる

不動産賃貸業では、物件そのものの収益力が最も重要です。

ただし、家賃がオーナーの口座に入るまでには、入居者、保証会社、管理会社、金融機関など、複数の相手が関わっています。

物件が満室でも、管理会社からの送金が止まれば、手元には現金が入りません。

帳簿上は黒字でも、返済日に現金がなければ支払いはできません。

規模が大きくても、借入先が多くても、安全とは限りません。

だからこそ大家は、

物件のリスク。

借入金のリスク。

金利上昇のリスク。

管理会社のリスク。

エリア需要のリスク。

金融機関との信用リスク。

これらを分けて考える必要があります。

そして、悪い数字や都合の悪い事実から目を背けず、早い段階で対応する。

最終的に会社や資産を守るのは、派手な融資テクニックではありません。

正確な数字を把握し、十分な現金を持ち、取引先との信用を積み重ねることです。

全東信の破綻は、物件の収益だけではなく、家賃が届くまでの資金の流れまで確認する必要があることを、改めて教えてくれる事例だと思います。

著者プロフィール

Lidix

ライディックス株式会社 代表 山上 晶則

東京都で不動産会社を経営しています。
将来的に不動産経済がどうなるかは、あくまでも二次的な要因が大きいため、「国内外の政治経済や金融」、「異業種で成功している事例」などを分析することを得意としています。

このブログでは、現在の経済状況を自分なりに読み解き、時代に合った経営や様々な投資、そして、「何かに依存しない生き方」を求めて日々勉強している内容をアウトプットするために書いています。



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