ビジネスと不動産経済を本気で考えるブログ

2026年10月、相続情報が原則非開示へ。投資家の買値と利回りにも影響する理由

「2026年10月から、登記受付帳に記載される相続情報が原則非開示になる」

このニュースを見て、多くの不動産投資家の方はこう思うかもしれません。

「用地仕入れ業者の話であって、自分には関係ない」と。

ですが、結論から言います。

これは単なる仕入れ業者の営業手法の変更ではありません。

不動産業界における「仕入れルートの地殻変動」であり、巡り巡って、投資家が物件を買うときの価格や利回りにも影響してくる話です。

なぜなら、皆さんが購入するアパートやマンションも、その上流には土地や中古物件を仕入れるプレイヤーがいるからです。

仕入れの入口が変われば、最終的に市場へ出てくる物件の量、質、価格も変わります。

毎月のように不動産の仕入れを行っている立場から、今回の変更をどう見るべきか。順番に整理します。

そもそも、何が変わるのか

まずは制度変更の内容です。

登記受付帳とは、法務局で、どのような登記が、いつ受け付けられたのかを記録している帳簿です。

これまで一部の不動産会社や仕入れ業者は、この情報から「相続を原因とする所有権移転」が行われた不動産を調べ、相続した所有者に対して直接アプローチをしてきました。

いわゆる「相続DM」です。

相続直後は、

「実家を使う予定がない」

「空き家の管理が負担になっている」

「相続税や維持費のために売却を検討したい」

といった問題が表面化しやすいタイミングです。

つまり、売却の可能性が比較的高い所有者に対して、ピンポイントでアプローチできる仕組みだったわけです。

この相続情報が2026年10月以降、原則として非開示になるとされています。

これまで相続DMを主要な仕入れルートとしていた業者にとっては、かなり大きな変化です。

約8割が効果を感じていた仕入れルートが閉じる

用地仕入れ業者約300社を対象とした調査では、約8割が相続所有者へのアプローチに効果を感じていたとされています。

それだけ多くの会社が活用していたルートが、業界全体で一斉に使いにくくなる。

ここが今回のポイントです。

もちろん、不動産の仕入れが完全にできなくなるわけではありません。

仲介会社からの紹介、金融機関、税理士、司法書士、地主との関係、インターネット広告、空き家情報、既存顧客からの紹介など、仕入れルートはほかにもあります。

ただし、これまで効率よく機能していた入口が一つ閉じれば、残された仕入れ先に業者が集中します。

そして、競争が集中すれば、仕入れ価格は上がりやすくなります。

なぜ、物件を買う投資家にも関係するのか

「自分は土地を仕入れる業者ではなく、完成した収益物件を買う投資家だから関係ない」

そう感じる方もいると思います。

ですが、ここは切り分けて考える必要があります。

投資家が購入する物件の価格は、土地の仕入れ価格や中古物件の取得価格と無関係ではありません。

仕入れ業者の調達コストが上がれば、そのコストは最終的に、

・新築アパートの販売価格
・中古物件の再販価格
・建売住宅や分譲マンションの価格
・投資家が購入する際の表面利回り

に反映されていきます。

例えば、受付帳を使った相続DMに依存していた業者が、税理士や司法書士などの士業ネットワークへ一斉に動けば、そこでの競争が激しくなります。

ウェブ広告や不動産テックを活用する業者が増えれば、広告費やシステム費用も必要になります。

その費用を業者だけが負担し続けるわけではありません。

最終的には仕入れ価格や販売価格に織り込まれます。

仕入れの上流で起きた変化は、時間差はあっても、必ず下流の投資家にも届きます。

判断軸1 一つの仕入れルートに依存すること自体がリスク

今回のニュースを見て、私が最初に感じたのは、

「一つの情報源に依存した仕入れは、制度が変わった瞬間に止まる」

ということです。

受付帳を利用した相続DMは、これまで一定の効果があったのだと思います。

しかし、制度変更一つで利用できなくなる可能性がある以上、仕入れルートとしては大きな脆さを抱えていたとも言えます。

事故は、担当者個人の能力だけで起きるわけではありません。

仕組みの設計によって起きます。

一つのルートしか持っていない会社は、そのルートが止まった瞬間、仕入れ全体が止まります。

これは、投資家にも同じことが言えます。

皆さんが物件情報を、

「いつも紹介してくれる一社」

「特定の営業担当者」

「一つのポータルサイト」

だけに頼っているとすれば、構造としては同じです。

その会社の仕入れが止まったり、担当者が退職したり、販売方針が変わったりすれば、物件情報が入らなくなります。

だからこそ、情報の入口は複線化しておくべきです。

仲介会社、売主業者、金融機関、士業、管理会社、既存の投資家仲間など、複数の接点を持つ。

「どこか一つが止まっても、仕入れ判断を続けられる状態」をつくることが重要です。

判断軸2 情報が閉じれば、調べるコストは上がる

今回の非開示化には、相続した方のプライバシーを保護するという目的があります。

突然、不動産会社から大量のDMが届くことに、不快感や不安を覚える方がいるのも事実でしょう。

その意味では、一定の理解ができる変更です。

一方で、不動産登記が持つ公示機能や、情報へのアクセスが制限されることへの懸念もあります。

ここでは、制度が良いか悪いかを感情的に判断する必要はありません。

投資家として考えるべきなのは、

「情報が閉じたとき、自分の投資判断にどのような影響が出るのか」

ということです。

情報が取りにくくなれば、物件の背景や所有者の状況を調べるためのコストは上がります。

これまで簡単に把握できていた情報が分からなくなれば、別の方法で確認しなければなりません。

つまり、デューデリジェンスの重要性がさらに高まります。

登記情報、境界、接道、越境、賃貸借契約、修繕履歴、管理状況、周辺賃料、売却事例など、自分で確認する項目を減らしてはいけません。

情報の透明性が下がる市場では、面倒な調査を引き受けた人に利益が残る可能性があります。

反対に、

「たぶん大丈夫だろう」

「業者が説明しているから問題ないだろう」

と調査を省略した人は、情報の非対称性によるリスクを抱えることになります。

面倒を引き受けた分がリターンになり、横着した分が落とし穴になる。

この両面で考える必要があります。

判断軸3 それでも最後に見るべきは「買った後に回るか」

ただし、ここで一段冷静になる必要があります。

相続DMが使いにくくなったとしても、不動産投資の本質は変わりません。

どのようなルートで出てきた物件であっても、最後に見るべきなのは、

「買った後に回るか」

です。

相続案件だから買う。

未公開物件だから買う。

業者から特別に紹介されたから買う。

こうした「物件が出てきた経路」を、購入理由にしてはいけません。

大切なのは、

・そのエリアに賃貸需要があるか
・適正な家賃で入居が決まるか
・金利上昇や空室があっても収支が耐えられるか
・修繕費を含めてもキャッシュフローが残るか
・将来、売却できる立地と価格になっているか

という点です。

安く仕入れたという事実だけでは、良い不動産投資にはなりません。

安く買ったとしても入居が決まらず、修繕費がかかり、出口がなければ、結果的には高い買い物になります。

反対に、仕入れ価格が多少高くても、賃貸需要が強く、長期間安定して回り、売却時にも買い手が付くのであれば、投資として成立する可能性があります。

見るべきなのはルートではなく、収益性と出口です。

仕入れ業者が足踏みする局面は、買い手にとってチャンスにもなる

制度変更直後は、多くの業者が新しい仕入れ方法を探すことになります。

士業との連携を強化する会社。

地主への訪問を増やす会社。

ウェブ広告を強化する会社。

管理会社や金融機関からの紹介を増やす会社。

各社がそれぞれの方法を試すため、一時的に仕入れ活動が不安定になる可能性があります。

こうした局面は、基準を持たずに市場を見ている人にとっては不安材料です。

しかし、自分の購入基準を持っている投資家にとっては、チャンスになる可能性もあります。

市場の参加者が仕入れルートの切り替えに気を取られている間も、賃貸需要そのものが突然なくなるわけではありません。

だからこそ、制度変更のタイミングを当てようとするのではなく、自分が買える条件をあらかじめ決めておくことが重要です。

例えば、

・購入エリア
・最低利回り
・借入後のキャッシュフロー
・空室率を考慮した収支
・修繕費の見込み
・土地値
・出口価格
・保有期間

といった条件です。

良い物件が出たときに判断できない人は、制度が変わっても変わらなくても買えません。

逆に、基準が決まっている人は、市場が混乱しているときでも冷静に判断できます。

制度は変わる。しかし、判断の軸まで変える必要はない

2026年10月の登記受付帳をめぐる変更は、仕入れ業界にとって大きな転換点になる可能性があります。

これまで相続情報を入口としていた会社は、別の仕入れ方法へ移行しなければなりません。

その影響は、いずれ投資用不動産の価格や利回りにも表れてくるでしょう。

ただし、投資家が取るべき構えはシンプルです。

物件情報の入口を一つに頼らず、複数持っておく。

情報が取りにくくなるほど、自分で行う調査を丁寧にする。

そして、どのような経路で出てきた物件でも、最後は「買った後に回るか」「出口があるか」で判断する。

制度はこれからも変わります。

融資環境も、金利も、税制も、仕入れ方法も変わります。

だからこそ、外部環境の変化に合わせて、投資判断の軸まで毎回動かしてはいけません。

仕入れルートは時代によって変わる。

しかし、買った後に回るかどうかを見るという原則は変わらない。

これが、今回のニュースを見て私が改めて感じたことです。

相続によって土地や古いアパート、空き家などを引き継いだものの、

「売ったほうがいいのか」

「建て替えたほうがいいのか」

「そのまま貸せるのか」

と判断できずにいる方も少なくありません。

私は、単純に相場より高いか安いかだけで見るのではなく、その土地に建物を建てた場合に事業として回るのか、将来の出口まで成立するのかという視点で判断しています。

周りにお困りの方がいれば、まずは気軽にお声がけください。

なお、本稿はあくまで私個人の見解であり、特定の投資行動を推奨するものではありません。最終的な投資判断は、ご自身の責任でお願いいたします。

著者プロフィール

Lidix

ライディックス株式会社 代表 山上 晶則

東京都で不動産会社を経営しています。
将来的に不動産経済がどうなるかは、あくまでも二次的な要因が大きいため、「国内外の政治経済や金融」、「異業種で成功している事例」などを分析することを得意としています。

このブログでは、現在の経済状況を自分なりに読み解き、時代に合った経営や様々な投資、そして、「何かに依存しない生き方」を求めて日々勉強している内容をアウトプットするために書いています。



SNSで最新情報を配信しています

関連記事

  • インバウンドが過去最高を更新しました
    2025年3月10日

  • 台湾不動産フェア!

    台湾不動産フェア!
    2018年9月29日

  • 今さら聞けない不動産投資の基本のキホン③~10の質問編~
    2020年11月26日

  • マイホーム金利のニュースを、投資家が読み飛ばしてはいけない理由
    2026年6月29日

  • Lidix Online

    ライディックス株式会社のオウンドメディアです。ライディックス株式会社は、東京都練馬区より投資用アパート、戸建住宅を提供している会社です。

    Lidix Onlineは主にライディックス株式会社の代表 山上が考えるビジネス・マーケティングの視点から不動産を取り巻く環境について、情報発信を行っています。

    私達の事業分野である不動産は、あくまで社会経済の一部です。より堅実な投資とは何かを考察するため、日々マクロな視点とミクロな視点で社会情勢を追いかけています。


  • 新着記事

    • 管理会社が家賃を持ったまま倒産したら?――「全東信」破綻から大家が考えるべきこと 2026年7月25日

    • 人口減少でも東京の家賃は上がる――これから狙うべき「適正家賃の街」 2026年7月23日

    • 2026年10月、相続情報が原則非開示へ。投資家の買値と利回りにも影響する理由 2026年7月22日

    • 資産200億円でも実刑。不動産投資家が「節税」で絶対に越えてはいけない一線 2026年7月18日

    • 6割が「売り時」と感じる今、投資家は出口を切るべきか──価格より時期の裏側を読む 2026年7月16日

    アクセスランキング

    • なぜ飲食店が休業要請で危険な状況になるかを会計の視点からお答えします。

      なぜ飲食店が休業要請で危険な状況になるかを会計の視点からお答えします。 2020年7月6日

    • 不祥事は「人」より「設計」で起きる。プルデンシャルの件を不動産業界の経営として読でみた 2026年1月26日

    • 今さら聞けない日本のバブル経済とバブル崩壊 2020年11月12日

    • メールやLINEの「返信」が遅い人は仕事ができない説

      メールやLINEの「返信」が遅い人は仕事ができない説 2020年7月9日

    • 自己紹介です! 2020年11月5日