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資産200億円でも実刑。不動産投資家が「節税」で絶対に越えてはいけない一線

総資産約200億円、80法人で122物件を保有していたとされる「サラリーマン大家」に、懲役3年の実刑判決が言い渡されました。

会社員として働きながら不動産賃貸業を拡大し、投資家向けのセミナーにも登壇していた人物です。

今回問題となったのは、消費税の不正還付です。

報道によると、金地金の取引を利用して課税売上を作り、約7300万円の消費税還付を受けたほか、さらに約9000万円の還付を受けようとしたとされています。

東京地方裁判所は、金地金の取引を「実態のない架空取引」と判断しました。

さらに、税制改正前の契約であるように見せるため、工事請負契約書の日付を遡らせていたと認定し、代表者本人に懲役3年、法人7社に合計3200万円の罰金を言い渡しました。

被告側は無罪を主張しており、判決にも納得しておらず、控訴する意向を示しています。

したがって、現時点では確定判決ではなく、一審判決の段階です。

その点は冷静に切り分ける必要があります。

ただ、今回の事件は、不動産投資をしている人にとって決して他人事ではありません。

結論から言います。

この事件から学ぶべきことは、

「節税スキームに手を出すな」ではありません。

自分が行っている取引を、税務署や裁判所の前で、客観的な資料を使って説明できるかを確認した方がいい、ということです。

資産が大きくても、守られるわけではない

まず、多くの人が驚くのは「資産200億円」という規模だと思います。

80法人を使い、100棟を超える物件を保有していたとされる投資家です。

普通のサラリーマン大家とは、すでに規模が違います。

金融機関との取引実績もあり、税理士などの専門家も周囲にいたはずです。

それでも、実刑判決が出ました。

ここで理解しておかなければならないのは、保有資産の大きさや取引実績は、税務上の正当性を証明してくれるものではないということです。

物件を100棟持っていても、課税関係は一つひとつの取引で判断されます。

有名な投資家であっても、セミナー講師であっても、税理士が関与していたとしても同じです。

実態のない取引や、事実と異なる書類があれば、その部分が問われます。

むしろ、取引規模が大きく、還付金額が高額になるほど、問題が発生したときの影響も大きくなります。

「税理士に言われた」は免罪符にならない

今回、被告側は、消費税還付の方法について、当時は多くの投資家が行っており、税理士の指導を受けて適法だと考えていたと主張しています。

この感覚は、正直に言えば理解できる部分もあります。

不動産投資をしていると、税理士やコンサルタント、金融機関、仲介会社から、さまざまな節税方法を提案されます。

「ほかの大家もやっています」

「税理士が問題ないと言っています」

「これまで否認されたことはありません」

このような説明を受けると、適法だと思ってしまう人は少なくありません。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

最終的に申告書を提出し、税金の還付を受けるのは自分の法人です。

代表者として意思決定をした以上、

「専門家に任せていた」

「適法だと聞いていた」

という説明だけで、責任がなくなるとは限りません。

もちろん、税務判断のすべてを経営者自身が理解するのは難しいでしょう。

だからこそ税理士に依頼します。

ただし、金額が大きい取引や、通常とは異なるスキームを使う場合には、最低限、次のことは確認する必要があります。

取引の目的は何なのか。

本当に商品やお金が動いているのか。

なぜその取引を行う必要があるのか。

税金の還付以外に経済的な合理性があるのか。

税務署から説明を求められた場合、どの資料を提出するのか。

これらの質問に対して、税理士任せではなく、自分自身の言葉で説明できる状態にしておくことが重要です。

裁判所が見ているのは「書類」だけではない

今回の裁判では、金地金の売買に関する書面が作成されていたとされています。

しかし、東京地裁は、書面が存在することだけでは取引の実態を認めませんでした。

金地金が実際に移動していたのか。

代金が本当に支払われていたのか。

価格はどのように決められたのか。

取引を行う経済的な理由があったのか。

こうした事情を総合的に見て、金地金取引は架空だったと判断しました。

これは不動産取引でも同じです。

契約書があるから安全。

請求書があるから問題ない。

領収書を作ったから取引が成立している。

そう単純ではありません。

税務調査や裁判になれば、書類の形式だけでなく、実際に何が行われたのかが確認されます。

契約書、銀行口座の履歴、メール、LINE、社内資料、関係者の証言などを照らし合わせ、取引の実態が判断されます。

書類を作れば事実になるのではありません。

事実に基づいて書類を作るのです。

この順番を間違えてはいけません。

契約書の日付を軽く考えてはいけない

今回のもう一つの重要な争点が、工事請負契約の成立時期です。

2020年度の税制改正によって、不動産取得に関する消費税還付のルールが変更されました。

その経過措置を受けるためには、一定の期限までに契約が成立している必要がありました。

被告側は、期限までに口頭で基本的な合意が成立していたと主張しました。

一方、検察側は、実際の契約成立は期限後であり、契約書の日付を遡らせていたと主張しました。

東京地裁は、関係者の証言や客観的な資料から、契約書の日付は事実と異なると判断しています。

不動産業界では、契約日や領収書の日付、請求書の発行日について、多少軽く考えてしまう場面があります。

「実質的には決まっていた」

「口頭では合意していた」

「事務処理が遅れただけ」

こうした事情が、本当に存在することもあるでしょう。

しかし、税金の扱いが変わる境目の日付については、通常以上に厳格な証拠が必要です。

口頭で合意していたと主張するのであれば、それを裏付けるメール、議事録、見積書、発注書、入金記録などが必要になります。

後から契約書の日付だけを調整すれば済むという話ではありません。

日付を変えることで税務上の利益が発生する場合、その変更は特に厳しく見られると考えるべきです。

還付金を返せば終わりではない

今回、被告側は修正申告を行い、受け取った還付金をすでに返還していたと報じられています。

それでも、執行猶予のない実刑判決が言い渡されました。

ここも重要なポイントです。

税務上の誤りが見つかった場合、追加で税金を支払い、延滞税や加算税を納付して終わるケースもあります。

しかし、架空取引や契約書の偽造など、意図的な偽装行為が認定されれば、単なる申告ミスでは済みません。

刑事事件になる可能性があります。

税金を返したことは、量刑を判断する際の一つの事情にはなります。

ただし、

「返金したから犯罪がなかったことになる」

わけではありません。

税務調査で指摘されたら直せばよい、という感覚で取引を行うのは非常に危険です。

一番怖いのは、刑罰だけではない

不動産事業を行う経営者にとって、実刑判決や罰金はもちろん重大です。

しかし、実務上はそれ以外の影響も無視できません。

金融機関との取引。

共同事業者との関係。

売主や買主からの信用。

従業員や取引先への説明。

既存融資の管理。

今後の物件取得や借り換え。

代表者に刑事事件の判決が出れば、金融機関が新規融資に慎重になる可能性があります。

既存の融資契約についても、報告義務や期限の利益に関する条項を確認する必要が出てくるかもしれません。

法人が多数あり、物件を数多く保有しているほど、影響を受ける関係者も増えます。

資産規模が大きいから安心なのではありません。

規模が大きいからこそ、一度信用を失ったときのダメージが広範囲に及びます。

節税と脱税の違いを、言葉だけで理解しない

節税は、法律で認められた制度を利用して税負担を抑えることです。

脱税は、所得や売上を隠したり、架空の取引を作ったりして、本来支払うべき税金を免れることです。

この説明自体は、誰でも知っています。

問題は、実務では境界線が分かりにくい手法があることです。

契約自体は存在する。

請求書も存在する。

税理士も関与している。

同じ方法を使っている投資家もいる。

こうした条件がそろうと、合法的な節税だと思いやすくなります。

しかし、税務上本当に重要なのは、形式ではなく実態です。

その取引に経済的な合理性があるのか。

税金を減らすこと以外の目的があるのか。

取引価格は適正なのか。

相手方は独立した意思で取引しているのか。

物やお金は実際に動いているのか。

説明と証拠が一致しているのか。

これらを確認しなければなりません。

「グレーだから大丈夫」ではありません。

グレーとは、安全という意味ではなく、否認される可能性があるという意味です。

僕なら、税務スキームをこう確認する

僕が高額な税務スキームを提案された場合、少なくとも一人の専門家の意見だけでは判断しません。

金額が大きい場合は、別の税理士や税務に詳しい弁護士にも確認します。

その上で、次の5点を文書で残します。

1つ目は、取引の事業上の目的です。

2つ目は、取引の具体的な流れです。

3つ目は、適用される法律や通達の根拠です。

4つ目は、税務署から否認される可能性です。

5つ目は、否認された場合に発生する税金、加算税、延滞税などの最大損失です。

そして、最も重要なのは、専門家から「大丈夫です」と言われることではありません。

なぜ大丈夫なのかを、自分が理解することです。

理解できないほど複雑な方法であれば、やらないという選択も必要です。

経営は、税金を最小化する競争ではありません。

会社を長く存続させ、金融機関や取引先からの信用を積み上げることの方が重要です。

今回の事件を「特殊な大家の話」で終わらせてはいけない

資産200億円。

80法人。

122物件。

約7300万円の不正還付。

数字だけを見ると、自分とは関係のない大規模事件に感じるかもしれません。

しかし、根本にある問題は、規模の小さい不動産会社や個人投資家にも起こり得ます。

税理士から勧められたから。

周りもやっているから。

書類がそろっているから。

税務調査で否認されたら返せばよいから。

こうした判断の積み重ねが、大きな問題につながる可能性があります。

今回の事件から学ぶべきなのは、節税を否定することではありません。

税金を適正に管理し、利用できる制度を活用することは、経営者として当然です。

ただし、目先の還付金や節税額と引き換えに、金融機関からの信用や会社の継続性を危険にさらしてはいけません。

僕が大切にしているのは、利益を最大化することだけではなく、会社を倒れにくくすることです。

税務も同じです。

攻める前に、守りを確認する。

節税額を見る前に、取引の実態を見る。

専門家の肩書を見る前に、説明の根拠を見る。

そして、税務署や裁判所の前でも、同じ説明ができる状態にしておく。

今回の一審判決は、すべての不動産投資家に対して、

「その節税、本当に自分の言葉で説明できますか」

と問いかけているのだと思います。

著者プロフィール

Lidix

ライディックス株式会社 代表 山上 晶則

東京都で不動産会社を経営しています。
将来的に不動産経済がどうなるかは、あくまでも二次的な要因が大きいため、「国内外の政治経済や金融」、「異業種で成功している事例」などを分析することを得意としています。

このブログでは、現在の経済状況を自分なりに読み解き、時代に合った経営や様々な投資、そして、「何かに依存しない生き方」を求めて日々勉強している内容をアウトプットするために書いています。



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