先日、ニューズウィーク日本版のYouTubeで公開されていた、藤井清孝さんのインタビュー、
「『チームを勝たせる』人が生き残る」
を見ました。
このインタビューでは、AI時代に人間に残る価値とは何なのか、企業の中に蓄積された「暗黙知」をAIでどう活用するのか、そして、これからどのような人材が必要とされるのかが語られています。
非常に興味深い内容でした。
特に私が印象に残ったのは、
これから価値を持つのは、自分一人で成果を出す人ではなく、周囲の人間やAIを活用して、チームを勝たせられる人である
という考え方です。

これはAIだけの話ではありません。
会社経営や組織づくりを考えるうえでも、非常に重要な考え方だと思いました。
藤井清孝さんとは
藤井清孝さんは、東京大学法学部を卒業後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。
マッキンゼー、ゴールドマン・サックス、CSファーストボストンのM&A部門などを経て、SAPジャパン、ルイ・ヴィトン、ケイデンスなど、複数のグローバル企業の日本法人トップを歴任してきた経営者です。
その後は、米国でAIを活用した遺伝子解析や、がん・認知症の早期発見に関わる企業グループの経営にも携わりました。
現在は、スタンフォード大学のAI専門家たちと共同創業したREVNAで、AIの「推論モデル」を基盤としたサービスを日本企業に提供しています。
つまり、単にAIに詳しい専門家というわけではありません。
金融、IT、ブランドビジネス、M&A、医療、AIと、異なる業界の最前線で実際に経営をしてきた方です。
その藤井さんが語る「AI時代に残る人材」の話だからこそ、説得力があると感じました。
「AIに仕事を奪われる」という考え方だけでは足りない
最近、
「AIが進化したら、自分の仕事はなくなるのでしょうか」
という話をよく耳にします。

文章を書く。
資料を作る。
数字を分析する。
メールを返信する。
お客様への提案を考える。
これまで人間が何時間もかけていた仕事を、AIは数分で終わらせるようになりました。
私自身も、日常的にAIを使うようになり、仕事のスピードが明らかに変わったと感じています。
もちろん、今後なくなる仕事や、必要な人数が減る仕事はあると思います。
ただし、
AIが人間の仕事をすべて奪う
という単純な話ではないと思っています。
むしろ起きるのは、
AIを使って成果を出す人と、AIを使わずに従来どおりの仕事を続ける人の差が、大きく開いていくことです。
そして、さらにその先では、
自分の仕事を速くするためだけにAIを使う人と、組織全体を強くするためにAIを使う人の差
が出てくるのだと思います。
会社の強さは、マニュアルに書けない部分にある
藤井さんの話の中で、もう一つ印象に残ったのが、企業に蓄積されている「暗黙知」です。
暗黙知とは、簡単に言えば、長年仕事をしてきた人の頭の中にある、言葉や数字だけでは説明しにくい経験や判断基準です。
不動産の仕事にも、この暗黙知が非常に多くあります。
例えば、土地の仕入れです。
駅から何分なのか。
土地の広さや形はどうか。
道路付けはどうか。
周辺の家賃はいくらなのか。
建築費はいくらかかるのか。
こうした数字を入力すれば、ある程度の収支は誰でも計算できます。
しかし、実際の仕入れ判断は、それだけではありません。
「この道路付けなら、建物の見せ方を工夫できる」
「駅から少し離れていても、この家賃なら入居する」
「このエリアは募集物件が少ないため、数字以上に競争力がある」
「表面上の利回りは高いが、将来の出口では苦労する可能性がある」
こうした判断は、何件も土地を見て、建物を建て、販売し、その後の入居状況まで確認してきた人だからこそ分かるものです。
当社が重視している「適正家賃」も同じです。
駅から徒歩10分を超えたら入居しない。
新築であれば、どんな家賃でも決まる。
そのような単純な話ではありません。
駅から15分であっても、物件の間取りや設備、周辺の需要に対して家賃が適正であれば、入居は決まります。
反対に、駅から近くても、周辺相場を無視して家賃を高く設定すれば、空室期間は長くなります。
この判断は、インターネット上の募集事例を見るだけでは分かりません。
実際にいくらで募集し、どのくらいの期間で、いくらで成約したのか。
その結果を継続的に確認することで、会社独自の判断基準がつくられていきます。
個人の経験を、会社の資産に変えられるか
これまで、こうした経験は担当者や経営者の頭の中に蓄積されてきました。
しかし、頭の中にあるだけでは、会社の資産とは言えません。
その人が会社を辞めれば、経験も一緒に失われてしまうからです。
もちろん、マニュアルを作ったり、会議で共有したりすることはできます。
しかし、細かな判断基準をすべて文章にするのは簡単ではありません。
「この土地は何となく危ない」
「この家賃では少し厳しい」
「この金融機関には、この説明の仕方が伝わりやすい」
こうした感覚的な判断まで、通常のマニュアルに落とし込むのは難しいと思います。
ところがAIを活用すれば、過去の会議記録、稟議書、家賃査定、販売資料、金融機関とのやり取り、販売後の入居実績などを横断的に整理できます。
過去に似た土地を仕入れたとき、どのような判断をしたのか。
販売時の設定家賃と、実際の成約家賃にはどのくらい差があったのか。
どの間取りが早く決まり、どの条件では募集に時間がかかったのか。
どの金融機関が、どのような物件を評価したのか。
こうした情報をAIが検索し、整理できるようになれば、個人の経験が会社全体で使える知識に変わります。
私は、ここにAI活用の大きな価値があると思っています。
AIは、単に文章を書くための道具ではありません。
社員や経営者の頭の中にある経験を、会社の資産に変えるための道具
でもあるのです。
AIを導入しただけでは、会社は変わらない
ただし、ChatGPTのアカウントを社員に配れば、会社が変わるわけではありません。
文章を作らせてみた。
会議の議事録を要約させた。
メールの返信を書かせた。
もちろん、それだけでも業務時間は短縮できます。
しかし、本当の意味でのAI活用は、単なる時間短縮ではないと思います。
重要なのは、会社の判断基準や過去の結果をAIで再利用し、次の判断精度を上げていくことです。
例えば当社では、アパートを販売した後も、販売時に設定した家賃と、実際に入居者が決まった家賃を比較しています。
設定家賃より高く決まったのか。
想定どおりだったのか。
募集開始から満室まで、どのくらいの期間がかかったのか。
どの部屋が先に決まったのか。
駅距離は入居スピードにどのくらい影響したのか。
このような実績を蓄積していけば、次の物件で設定する家賃の精度をさらに高められます。
ここにAIを組み合わせれば、単にSUUMOやHOME’Sの募集事例を並べるだけではなく、当社が過去に販売した物件の特徴や実際の成約結果まで含めて分析できます。
これは、インターネット上の一般的な情報だけでは出せない、会社独自の強みになります。
AIは、会社の方向性までは決めてくれない
一方で、AIにすべて任せればいいとも思っていません。
AIは、与えられた情報を整理し、複数の選択肢を提示することは得意です。
しかし、
会社をどこへ向かわせるのか。
何をやり、何をやらないのか。
短期的な売上と長期的な信用のどちらを優先するのか。
誰のために事業を行うのか。
こうした方向性を決めるのは、AIではありません。
最終的に方向を決め、その結果に責任を負うのは人間です。
私は以前から、経営では、
方向性を誤らないこと
が最も重要だと考えています。
どれだけ優秀な社員がいても、どれだけ仕事が速くても、進む方向を間違えれば、会社は目的地から遠ざかってしまいます。
AIによって仕事のスピードが上がる時代だからこそ、方向性を間違えたときの損失も大きくなります。
間違った方向へ、以前よりも速いスピードで進んでしまうからです。
これからの経営では、速く走る能力以上に、
どちらへ走るのかを決める能力
が重要になると思います。
「自分が勝つ人」から「チームを勝たせる人」へ
これまでの会社では、個人で高い成果を出す人が評価されてきました。
営業成績が高い。
資料を作るのが速い。
専門知識が豊富。
一人で難しい仕事を処理できる。
もちろん、これらは今後も大切です。
しかし、AIによって個人の作業能力が底上げされると、「自分だけが速く仕事をすること」の希少性は下がっていきます。
これから差がつくのは、自分の知識や経験を周囲に共有し、チーム全体の成果を上げられる人です。
メンバーの強みを見つける。
適切な役割を与える。
AIに正しい情報を与える。
AIが出した回答の間違いを見抜く。
異なる意見をまとめる。
最終的な判断をする。
そして、結果の責任を取る。
このような役割は、簡単にはAIへ置き換えられません。
これから人を評価するときには、
「本人がどれだけ優秀なのか」
だけではなく、
「その人がいることで、周囲の人まで成果を出せるようになるのか」
を見る必要があると思います。
私自身も、AIとの向き合い方が変わってきた
今、私の周りにも、AIに長けた人間が現れています。
私が頭の中で考えていることを聞き、それをシステムやサービスとして、少しずつ形にしてくれています。
これまでは、アイデアがあっても、それを実際の仕組みに落とし込むまでには、多くの時間と費用がかかりました。
しかし、AIを理解している人と一緒に取り組むことで、アイデアを形にするまでのスピードが明らかに変わっています。
正直に言えば、
「この人がいれば、自分の考えていることを、もっと形にできるのではないか」
とも感じています。
ただし、その人一人にすべてを任せればいいとは思っていません。
私が持っている不動産の経験。
会社として大切にしてきた判断基準。
お客様に提供したい価値。
将来、会社をどのような形にしたいのか。
これらを伝え、AIを含めたチーム全体で成果を出せる仕組みにすることが、経営者である私の役割です。
AIに詳しいことと、事業を成功させられることは、必ずしも同じではありません。
技術を理解する人。
現場を理解する人。
お客様を理解する人。
数字を管理する人。
方向性を決める人。
それぞれの強みを組み合わせ、チームとして結果を出すことが重要です。
中小企業にとって、AIは大きなチャンスになる
AIの活用というと、資金や人材が豊富な大企業の方が有利に見えます。
しかし、私は中小企業にも大きなチャンスがあると思っています。
大企業は、部署が多く、既存のシステムも複雑です。
新しいことを始めるにも、複数の承認が必要になることがあります。
一方で中小企業は、経営者が方向性を決めれば、小さく始めて、すぐに試すことができます。
仕入れ判断。
家賃査定。
建築費の比較。
金融機関の融資条件。
販売後の入居実績。
管理物件で起きたトラブルと対応方法。
こうした情報を少しずつ蓄積し、AIが検索・分析できる状態にしていくだけでも、会社の生産性と判断精度は変わっていくはずです。
大切なのは、最初から完璧なシステムを作ろうとしないことです。
まず一つの業務で使ってみる。
結果を確認する。
間違いを修正する。
そして、別の業務へ広げていく。
この繰り返しでいいと思います。
AI時代に、人間に残る価値
今回、藤井清孝さんのインタビューを見て、改めて感じました。
AI時代に人間に残る仕事は、単に答えを出すことではありません。
何を目指すのかを決める。
正しい問いを立てる。
過去の経験を組織の知識に変える。
人とAIを適切に組み合わせる。
周囲の人の能力を引き出す。
そして、最終的にチームを勝たせる。
これが、これからの経営者やリーダーに求められる役割ではないでしょうか。
AIに仕事を奪われることを心配するよりも、
AIを使って、自分の会社やチームをどう強くするのか
を考える。
AIを自分の代わりに仕事をする道具として見るのではなく、社員や会社の能力を引き上げる存在として考える。
私自身も、まだ試行錯誤の途中です。
しかし、これからの会社経営を考えるうえで、AIを避けて通ることはできません。
自分一人がAIを使えるようになるのではなく、AIを活用して会社に知識を残し、社員の能力を引き上げ、チームとして成果を出す。
藤井さんの言葉を借りれば、
「自分が勝つ人」ではなく、「チームを勝たせる人」になる。
私自身も、そのような経営者でありたいと思います。
参考:ニューズウィーク日本版YouTube
藤井清孝氏インタビュー「『チームを勝たせる』人が生き残る」



