日本に住む中国人が増え続けています。
出入国在留管理庁によると、2000年の在日中国人の人数は約33万5000人。2010年には2倍以上の約68万7000人、2024年6月にはさらに増えて約84万4000人にまで増えたそうです。
元々、在日理由は留学・就職・出稼ぎ・結婚が多かったようですが、今は中国の政治リスクの影響を受け、移住が目的となっているようです。
なぜ日本?な理由
今まで中国人の移民希望先の上位は、イギリス、カナダ、シンガポール、マレーシアでした。いずれも移民受け入れの実績が多く、英語が通じたり、中国系の人が多く住んでいたりして、言葉の問題が比較的少ないこと、子どもの教育上でも問題が少ないことが理由だったようです。
しかし、カナダやイギリスは、英語は通じるものの、中国から遠くて、冬は寒い。シンガポールは中国語が通じるけれど、生活コストが高い。
その点、日本は近いし、(生活コストが)安い、(子どもが1人で外出しても)安心、安全。食事も美味しくて、コスパがいい。政治的に安定していて、空気もいい。よく考えてみると、日本は三拍子どころか、五拍子、六拍子も揃っている、理想的な移住先のようです。
また、日本は中国以外では唯一漢字を使っている国です。日本語を勉強したことがなくても、日本語の看板や標識をある程度理解できることも大きいようです。
そのうえ、不動産の利回りも安定しているので、日本にいくつかの不動産さえ持っていれば、働かなくても定期的な収入が得られます。そして中国にも頻繁に帰れます。こうした観点から、最近は海外の中でも、とくに日本に移住したいという人が増えているようです。
資産を移したい
移住を希望している理由の一つに2021年から始まった共同富裕政策(共に豊かになるという政府のスローガン)の影響があるようです。
共同富裕は、経済成長によって生じた格差の是正を目的とするもので、とくに政府によってファーウェイやアリババといった巨大IT企業への締め付けが強化されています。富裕層や芸能人への目も厳しくなり、不正蓄財をした人の摘発、財産没収や資産凍結が始まる、との噂も飛び交いました。
人口約2500万人の上海には、およそ200万人の富裕層が住んでいると言われていますが、彼らの中には、たとえ不正とは関係なくても、「とにかく不安なので、資産を安全なところに移しておきたい」という気持ちが強いようです。
中国人動かしている「攻略」って知ってますか?
いま、多くの中国人の行動を”支配”している「攻略(ゴンリュエ)」と呼ばれるWebコンテンツをしっていますか?
「攻略」はTikTokやYouTubeのようなプラットフォームを指す言葉ではなく、特定のトピックに関する詳細な情報やアドバイスをまとめたガイドのようなものです。
写真とテキストで解説しているケースが中心ではありますが、動画のケースもあり、旅行や買い物、コスメ、投資、海外移住など、さまざまな分野の情報が「攻略」にまとめられています。
日本における不動産投資も、例外ではありません。日本の不動産の魅力や注意点などが、さまざまな「攻略」にまとめられています。
昨年ニュースとなった“攻略”の一つに『日本の運転免許証の取得』があります。
観光ビザで入国してホテルの住所で申請すれば、免許の試験を受けられる。日本の免許証を取得できれば、それをもとに国際免許証を作れる。そうすれば、世界の大半の地域で運転できるようになる。
というような知りたい情報があればまず『攻略』を探すようです。そしてこれは今中国人の一般的な行動になっているようです。
日本不動産の「攻略」は?
- 不動産利回りが安定している
日本は賃貸市場が発展しており、安定した利回りが期待できる。不動産価格が高く、利回りが低い東京でも5%前後とされる。地方都市ならばもっと高い。特に住民の年齢が若く、ITなど新興産業の成長が著しい福岡は注目されているようです。
日本と比べると、中国の利回りは北京、上海、広州、深圳などの大都市でも2%弱(麟評居住大数拠研究院方向署、2024年9月)で、地方都市はさらに低いようです。資産価値が上昇すれば大きな利益を上げられる可能性がある一方で、賃貸で安定的な収入を得ることが難しい現状です。
このように、中国人の日本不動産投資は従来、賃貸利回りを重視していました。ただ、近年ではタワマンブームにより、資産価値上昇を狙った投資も増えています。
しかし、割高感やメンテナンスコストの高さが問題視されてきており、「タワマンはドでかい地雷」といった警戒を呼びかける攻略も見られるようになってきているので注意が必要です。
- トラブルの少なさ
日本は賃貸市場が成熟しているため、トラブルが起きにくいのもメリットだという。日本語ができない中国人でも管理会社に任せておけば、大きな問題は起こりづらいとしています。
日本の管理会社が優秀という評価ですね。
中国では個人所有物件の貸し出しは管理会社を仲介しないことが多く、もめ事に発展しやすいらしい。また、半年単位、1年単位での契約が多いが、勝手に又貸しされていたといった借主側の問題も多くあるそうです。
- 住宅の質が高い日本
新築物件でも数年もすると故障が多発し、老朽化してしまう。いわゆる「地雷物件」が中国では多いという。また高層建築でも、長期修繕計画と積み立て金制度が策定されていないことが多いため、今後、社会問題になる可能性が高いと考えられています。
一方、日本は中古物件でも質が良く、さほどメンテナンスコストがかからない点が魅力だと言われています。
- 低金利の住宅ローン・頭金比率の低さ
日本で働いている長期滞在者の場合は住宅ローンが利用できますが、その金利は中国よりも低い。中国では今年1月から引き下げられたがそれでも3.3%と、日本に比べてかなりの高水準です。
また、頭金比率も引き下げられたようですが、北京市では20%が下限とされています。複数の「攻略」で「日本では条件によっては頭金ゼロでもローンが組める」と取りあげられています。
- 土地の所有権
中国では土地はすべて国有ではあるが居住用地使用権は70年と長く、かつ期限切れになってもなんらかの継続措置が打ち出される可能性が高いようです。その意味では所有地に近い権利であるりますが、それでも「中国とは違い、購入すれば自分の土地になる」というのは強力な宣伝文句のようです。
自分の土地を持つというロマン、その究極の形として、複数の「攻略」で取りあげられているのが「日本の島をまるごと買う」、だ。2023年に日本の無人島を購入したとの中国人女性によるSNS投稿がバズったことも影響しています。
ただ、「攻略」を見ると以外に冷静で、「水や電気のインフラ整備にコストがかかる」「自然保護の関係もあり、好き勝手に建設できるわけではない」といったただし書きがついているので、案外“ちゃんとしている”という印象です。
『攻略』が指摘する日本不動産投資の“欠点”とは?
「攻略」では、日本不動産投資のリスクも認識されています。地震災害の多さ、為替レートの大きな変動、少子高齢化による人口減少といったあたりは日本人投資家とさほど認識は変わらないようです。その他、中国人投資家ならではの不安要素は下記のとおり。
- 空室リスク
賃貸利回りが良い物件と見込んで購入しても、実際には借主が見つからず利益を上げられないことも。日本に住んでいない投資家がよく確認せず購入した結果、地方都市の、しかも交通が不便な場所で失敗するというケースが多いという。すでに借主がいる物件を購入するのが安全だ、とのアドバイスもあるそうです。
- 法律・耐震基準
日本の法律を知らずに失敗するケースも警戒されています。特に「新耐震基準」を満たしていないとローン審査が通りづらい、保険が高くなるというリスクがあることから、1981年より前に建てられた物件には手を出すな、というアドバイスが多く見られています。
- 税金・修繕積立金
中国では、まだ固定資産税が導入されていません。また、前述の通り修繕積立金も法制化されていない。この点を理解していないと、思わぬ出費が生まれる、と注意されています。
- 中国人ならではの考え
気になるケースとしては“天井高”のようです。
日本では240センチが一般的だが、中国では280センチが標準のようです。そのため、中国人が住むと天井の低さが気になるケースが多いという。
また、中国ではかなりの富裕層でもないと購入できない一戸建てが日本では気軽に買えるのも魅力だが、実際に住んでみた人からは、「管理会社がないのでゴミ捨て場など自分で管理しないといけない」「庭の草取りがしんどい」「夏の2階は死ぬほど暑い」「駅から離れた一戸建ては近所にスーパーがないなど不便が多い」「台風のたびにどこか壊れるのではないかと不安」という失敗談も語られています。
まとめ
どんな人でも見知らぬ国での投資、特に法制や税制も複雑で、思わぬアクシデントが待ち受ける不動産投資は難易度が高い。
これは中国人投資家にとっても同様ではありますが、彼らの強みは情報共有です。失敗しやすい落とし穴や最新トレンドは、今回取りあげた「攻略」によってまたたく間に拡散されます。
公開情報以外でも、口コミによる情報拡散の速さも日本の比ではないようです。いつまでも同じ失敗には陥らないわけはこのあたりにありそうです。
ゆえに中国人相手のビジネスは、相手にも利益をもたらすWin-Winの仕組みでなければ、あっという間に「あそこは落とし穴」という情報が出回り、伸びなくなってしまうでしょう。
この情報共有のスピードがあって、なお日本への投資が有望と見られていることは、ポジティブな材料と言えます。
しかしながら日本投資のリスクが懸念されるようになれば、日本に投資する以上の素早さで撤退するのも間違いないでしょう。