先日、ある動画で「『優秀な若手社員に学ぶ』仕事が出来るビジネスマンが“10〜30代でやるべきこと”を見ました。
動画では、優秀な社員の行動をきっかけに、年代ごとに仕事で求められることが違うのではないか、という話がされていました。
この話を聞いて、私は以前、実際に一緒に仕事をした社員のことを思い出しました。
当社の主な事業は、土地を購入し、そこに新しくアパートや建売住宅を企画・建築する、売買と開発が中心です。
その社員は、私が何を求めているのかを理解し、こちらが細かな指示を出す前に、必要な内容を提案書へまとめていました。
そして、資料を渡すだけではなく、自分からプレゼンをしに来ました。
私はその姿を見て、「仕事ができる人」とは、知識が多い人や話が上手な人だけではないのだと感じました。
仕事を前に進める人は、上司からの指示を待つ前に目的を理解し、相手が判断できるところまで形にして持ってきます。
そして、その力は突然身につくものではなく、若い頃から積み重ねた経験の上にあるのだと思います。

私が実際に見た「指示を待たない社員」
私がその社員を見ていて印象に残ったのは、こちらが細かく指示しなくても、私が何を求めているのかを考えていたことです。
もちろん、上司の考えていることを何でも察するという話ではありません。
会社が今どこを目指しているのか。
今回の仕事では何を決める必要があるのか。
私が普段、どのような情報をもとに判断しているのか。
日頃の会話や仕事の流れから、そうした目的をつかもうとしていたのだと思います。
その上で、自分なりに情報を集め、提案書という形にし、私が指示を出す前にプレゼンへ持ってきた。
私が価値を感じたのは、提案が最初から完璧だったかどうかだけではありません。
提案書があれば、目的、現状、課題、次に取るべき行動を具体的に話せます。
考えが違う部分があっても、その場で修正できます。
つまり、その社員が持ってきたのは、単なる資料ではありません。
私や会社が、次の判断をするための材料を持ってきたのです。
土地の仕入れや建物の企画でも、これと似た場面は多くあります。
「この土地の情報が入りました」と報告するだけなのか。
それとも、法令上の制限、道路や上下水道の状況、周辺相場、建築できる建物の規模、想定される建築費、完成後の販売価格や賃料まで調べ、事業案を持っていくのか。
同じ土地情報を受け取っていても、後者のほうが会社は仕入れの判断をしやすくなります。
仕事ができる人は、正解を一人で決める人ではありません。
関係者が正しい判断をできるように、事実と選択肢を整える人なのだと思います。
10代で大切なのは、「経験の幅」を広げること
動画では、10代はよく遊び、いろいろな経験をしたほうがよいという話が出てきます。
ここでいう「遊ぶ」は、ただ時間を消費するという意味ではないと私は受け取りました。
人と関わる。
予定どおりにいかないことを経験する。
限られた場所や道具で、どうすればみんなが楽しめるかを考える。
失敗したり、怒られたり、仲直りしたりする。
そうした正解の決まっていない経験が、考え方の柔軟性や、人との距離感をつくるという話だと思います。
不動産業は、教科書どおりに進まない仕事です。
同じような間取りの建売住宅でも、お客様が気に入る点は違います。
同じ土地でも、売主、買主、仲介会社、金融機関、設計会社、建築会社では、確認したいことや優先したいことが違います。
契約条件だけを説明すれば終わるわけではなく、相手が何に困り、何を不安に感じているのかまで考えなければなりません。
そのときに役立つのは、知識だけではなく、さまざまな立場の人と関わった経験です。
私は、若い頃の経験の幅は、すぐに数字には表れなくても、後になって接客、交渉、採用、マネジメントの土台になるのだと思います。
20代は「量」を通して、自分の判断基準をつくる時期
動画では、20代は時間と体力があり、とにかく量をこなす時期だと話されていました。
ただ、私はこれを「長時間働けばよい」という意味には受け取っていません。
法令や会社のルールを守り、安全と健康を犠牲にしないことは大前提です。
その上で、若いうちに多くの仕事へ手を挙げ、多くの打席に立つことが大切だという話だと思います。
当社のような不動産会社であれば、土地を見る。
周辺を歩き、道路や高低差、近隣の建物を確認する。
役所や法務局で、権利関係や法令上の制限を調査する。
仲介会社や売主と話をする。
どのようなアパートや建売住宅をつくれるかを考える。
設計会社や建築会社から図面と見積もりを取る。
土地代、建築費、諸経費、借入条件を含めて事業収支をつくる。
金融機関へ事業の内容を説明する。
完成後の販売活動を行い、お客様へ引き渡す。
この一連の仕事を何度も経験することで、知識が実務とつながっていきます。
宅地建物取引士の試験で学ぶ知識も大切です。
しかし、条文や用語を覚えただけでは、目の前のお客様がどこで迷い、どの説明を必要としているかまでは分かりません。
数多くの現場に立ち、成功と失敗を振り返って初めて、自分なりの判断基準ができます。
動画では、与えられた作業をただ繰り返すのではなく、もっと効率のよい方法を考えることにも触れられていました。
量をこなす目的は、忙しさに慣れることではありません。
同じ仕事の中にある違いに気づき、次はどうすればもっと良くできるかを考えられるようになることです。

30代は、自分が動くだけでなく「仕事を動かす」
動画では、30代になると、ただ量をこなすだけでなく、PDCAを回して事業を前へ進める力が求められるという話がされていました。
私は、この「仕事を動かす」という表現が重要だと感じました。
自分の担当業務を終わらせるだけなら、自分が頑張れば何とかなることもあります。
しかし、事業やチームを動かすには、周囲が判断できる情報を集め、計画を立て、結果を確認し、次の行動につなげなければなりません。
たとえば、仲介会社から土地の売却情報が入ったとします。
「立地が良さそうです」「価格が安いと思います」という感想だけでは、仕入れの判断はできません。
– 所有者や権利関係に問題はないか
– 接道、用途地域、建ぺい率、容積率などの条件はどうか
– 高低差、擁壁、地盤、解体、上下水道などに追加費用の可能性はないか
– アパートと建売住宅のどちらが土地を生かせるのか
– 何戸、または何棟を計画できるのか
– 土地代、建築費、諸経費、金利を含めた総事業費はいくらか
– 想定賃料や販売価格に無理はないか
– 事業期間と利益、売れ残った場合のリスクはどうか
ここまで整理されて初めて、経営側は土地を購入するのか、価格交渉をするのか、今回は見送るのかを判断できます。
動画では、都合のよい報告だけを上げると、経営側の判断が鈍るという趣旨の話もありました。
これは不動産会社でも同じです。
土地の価格が安いことだけを伝え、造成や解体、インフラ整備に費用がかかる可能性を伝えない。
想定の販売価格や賃料だけを高く置き、その根拠や、相場が変化した場合のリスクを伝えない。
担当者にとって都合の悪い情報が抜ければ、経営者は正しい仕入れ判断ができません。
良い報告とは、安心させる報告ではなく、判断に必要な事実がそろった報告だと思います。
「何をすればよいですか」と聞く前に、提案を持っていく
私が実際に見た社員の行動は、売買と開発の現場でも実践できることです。
それは、質問や相談をするときに、自分なりの提案を添えることです。
「この土地を買いますか」ではなく、
「法令、接道、周辺相場を確認し、建売住宅を3棟計画した場合の収支を作りました。この価格で仕入れられれば、諸経費を含めてもこの程度の利益を見込めます。ただし、地盤改良費は未確定なので、契約前に追加調査が必要です」
と伝える。
「ここにアパートを建てられますか」ではなく、
「周辺の賃料と間取りを調べ、想定入居者、戸数、建築費、借入条件を含めた事業収支を作りました。建築費が上がった場合と、想定賃料を下回った場合の数字も比較しています」
と伝える。
「建売住宅の販売が計画より遅れています」と報告するだけではなく、
「問い合わせ数、内見後の反応、周辺の成約事例を確認しました。価格を見直す案、広告の見せ方を変える案、設備を追加する案について、必要な費用と効果を整理しました」
と伝える。
もちろん、最初の案が正しいとは限りません。
むしろ、修正されることのほうが多いと思います。
それでも、提案があれば、上司はゼロから考えるのではなく、何を直せばよいかを伝えられます。
本人も、どこに判断のずれがあったのかを学べます。
仕事の速さは、作業時間の短さだけではありません。
組織の判断を早くし、次の行動までの時間を短くすることも、仕事の速さだと思います。

年代論を、年齢による決めつけにしない
動画は10代、20代、30代という年代で整理されていましたが、私は年齢そのものが能力を決めるとは思いません。
20代でも、すでにチームや事業を動かしている人はいます。
30代や40代で新しい仕事に挑戦し、もう一度量をこなす時期に入る人もいます。
経験のなかった分野へ転職すれば、年齢に関係なく、まず基礎を覚え、多くの現場に出る必要があります。
大切なのは、自分が今どの段階にいるかを見誤らないことだと思います。
まだ経験が少ないのに、効率や理屈だけで仕事を選びすぎていないか。
十分な経験があるのに、指示された作業をこなすだけになっていないか。
責任ある立場なのに、判断材料を集めるところから部下へ丸投げしていないか。
年代は、その問いを考えるための分かりやすい目安です。
社員を育てる会社側も、「若いから量をやれ」「30代だから結果を出せ」と言うだけでは足りません。
経験を積める仕事を任せる。
失敗を振り返る時間をつくる。
何を報告してほしいかを明確にする。
自分から提案を持ってきた人には、完成度だけでなく、その行動を評価する。
人が育つかどうかは、本人の努力だけでなく、会社がどんな打席を用意するかにも左右されると思います。
不動産会社で育てたいのは、「正解を知っている人」ではない
不動産の現場では、毎回同じ答えが使えるわけではありません。
土地も違えば、そこに建てる建物や購入するお客様も違います。
市場も、金利も、建物の状態も変わります。
だから会社が育てるべきなのは、過去の正解を覚えている人だけではないと思います。
現場をよく見る。
事実を集める。
自分なりの仮説を持つ。
小さく試す。
結果を正直に報告する。
うまくいかなければ、次の案を出す。
この繰り返しができる人が、変化の多い不動産業でも仕事を前へ進められるのではないでしょうか。
私が実際に見た社員の強さも、単に正解を言い当てたことではありません。
私が何を求めているのかを考え、必要な情報を集め、提案書という見える形にして持ってきたことです。
そこから意見を交わし、内容を直し、実行できる案へ近づけていく。
私は、その姿勢こそが「仕事ができる人」の強さだと感じました。

現時点の結論
私なりの現時点の結論は、仕事ができる人は、年齢に応じて急に能力が変わるのではなく、その時期に必要な経験を積み上げているということです。
10代で、正解のない遊びや人間関係から経験の幅を広げる。
20代で、多くの現場に立ち、量を通して判断基準をつくる。
30代で、事実を集め、指示される前に提案を出し、PDCAを回して仕事そのものを動かす。
ただし、これは年齢で人を区切るための話ではありません。
自分が今、何を積む段階にいるのかを考えるための話です。
売買と開発を行う不動産会社であれば、まず多くの土地と事業計画に向き合う。
その経験を感覚のまま終わらせず、数字と事実に変える。
そして、問題だけを報告するのではなく、次の判断ができる案まで持っていく。
経営者や上司の役割は、そのような行動ができる人に「勝手に進めるな」と言うことではなく、自分から持ってきた提案を歓迎し、一緒に精度を上げることだと思います。
完成してから動く会社より、仮説を形にし、早く試し、正直に学べる会社のほうが強い。
今回の動画を見て、私は人材育成とは知識を教えることだけではなく、仕事を前へ進める経験をどう積ませるかを考えることなのだと感じました。




