粗利益率65%。
不動産の事業に携わる立場として、気になる数字です。
NewsPicksの「【坪4500万円】NOT A HOTELの稼ぎ方が見えてきた」(2026年9月6日公開)では、別荘をシェアして所有するNOT A HOTELの事業が紹介されていました。
会員ではないと見れない可能性があるので簡単に解説します。
内容を追っていくと、この数字だけで「ものすごく儲かる会社だ」と判断するのは早いかもしれません。
私が考えたかったのは、その利益がどう生まれているのか。そして、高い価格で選ばれる理由を、この先も維持できるのかということです。
加えて、株主に同業のオープンハウスグループがいることと、創業者が旅の経験を事業に変えた点にも関心を持ちました。
これは、特別な別荘を販売する会社だけの話ではありません。
私たちが土地を仕入れ、建物を企画して販売する仕事にも、考えるべき点があると思いました。
粗利益率65%は、そのまま続く数字ではない
まず、動画で紹介されていた65%という粗利益率には、売上を計上する時期の影響があると説明されていました。
番組が伝える会社側の説明では、会員権部分の売上が先に計上され、建物部分の売上計上は後になります。今回の決算は、その組み合わせによって粗利益率が高く見える時期だったということです。
また、一定期間でならした粗利益率の目線として、25〜30%程度という説明も紹介されていました。
これは将来の実績が保証された数字ではありませんが、少なくとも、65%を毎年続く利益率として受け取る話ではないと分かります。
さらに、粗利益と営業利益も分けて見る必要があります。
NOT A HOTEL株式会社の第6期決算公告を掲載した官報決算データベースによると、2026年3月期の売上高は112億7300万円、営業利益は13億8500万円。ここから計算した営業利益率は約12.3%です。
粗利益から販売費や一般管理費を引いた後、どれだけ残るのかを見ると、受ける印象は変わります。
私は、事業を見るときには、一つの期の目立つ数字だけでなく、開発から販売までの流れと、継続して必要になる費用を合わせて考えたいと思っています。

坪4500万円でも、買う理由がある
動画のタイトルにある坪4500万円も、前提を押さえておきたい数字です。
番組では、湯河原のペントハウスについて、1口約1億円の価格を36口分合計し、約263㎡の屋内面積で割り直していました。
つまり、1人が1室を36億円で購入した実績を示しているわけではありません。
公式の湯河原の紹介ページを見ると、このタイプには広い屋外空間やプールも備わっています。屋内面積だけで計算した坪単価を、一般のマンションとそのまま比較するには条件が違います。
それでも、高額な商品であることに変わりはありません。
では、買う人は何にお金を払っているのか。
私は、建物の広さに加えて、その場所で過ごす時間や、自分ではつくれない空間を所有する満足感にも価値を感じているのだと受け取りました。
公式サイトの説明では、年間10泊から所有でき、他のNOT A HOTELも相互利用できる仕組みになっています。自分で別荘の清掃や維持管理を手配する負担も抑えられます。
もちろん、管理の手間を任せられることと、費用がかからないことは別です。管理費などの負担はあり、相互利用でも差額が必要になる場合があります。
それを含めても欲しいと思う人がいる。
私には、そこがこの事業を考えるうえで大切に見えました。
旅の経験を、事業に変えた創業者
もう一つ、私がすごいと思ったのは、NOT A HOTELの創業者である濵渦伸次氏の経歴です。
同社が公開しているプロフィールによると、濵渦氏は2007年にアラタナを創業し、2015年にZOZOグループ入り。ZOZOテクノロジーズの取締役も務め、2020年4月にNOT A HOTELを設立しています。
動画では、世界中のホテルを巡ってきた経験も紹介されていました。
また、濵渦氏自身が創業の背景を書いた記事では、年間100日ほどホテルに泊まる生活の中で、宿泊料金の仕組みに疑問を持ったことや、長く携わってきたECの経験から、住宅をオンラインで直接販売する発想が生まれたことが語られています。
私は、世界中を旅して得た経験を、実際のビジネスに変えたところに感心しました。
自分が心地よいと感じた空間や、もっとこうなればよいと思ったこと。それを、他の人もお金を払って利用したいと思える商品にしている。
そこには、旅で得た感覚と、それまでの仕事で培った力の両方があるのだと思います。
同じ場所を訪れても、何を感じ、何に疑問を持ち、どう仕事につなげるかは人によって違います。私も、自分が経験したことを、これからつくる不動産の価値へどう結びつけられるか、意識したいと感じました。
土地の評価は、誰に何を提供するかで変わる
一般の住宅を企画するなら、駅からの距離や買い物の利便性は、需要を考えるうえで重要です。
一方、日常から離れて過ごしたい人に向けた別荘なら、人の少なさや周囲の静けさが魅力になることがあります。
同じ立地の特徴でも、使い方とお客様によって評価が変わるのです。
私は、土地を見るときに、今ある用途や周辺相場だけで考え方が固まっていないか、改めて意識したいと思いました。
ただ、土地が安ければ利益が出るわけではありません。
道路との関係、造成、給排水、建築上の制約、工事のしやすさ。土地代の外側にも費用は発生します。
見晴らしのよい場所に建てたいとしても、その景色を生かすために、どれだけ工事費が増えるのか。その増加分に、お客様が価値を感じてくれるのか。
土地を安く買えたという話だけで終わらず、完成した商品として評価されるところまで組み立てる。それが開発の仕事だと、私は考えています。
土地を分ける売り方と、時間を分ける売り方
私が注目したもう一つの点は、NOT A HOTELの株主に、オープンハウスグループがいることです。NOT A HOTELの公式サイトにも、株主として掲載されています。
当社も、土地を仕入れ、建物を企画・開発して販売する仕事をしています。もちろん、オープンハウスグループとは、会社の規模も扱う金額も全く違います。
私が特に面白いと感じたのは、土地を分けて売る事業と、利用時間を分けて売る事業に、共通する考え方があることです。動画でも、この比較が取り上げられていました。
住宅の開発では、土地をいくつかの区画に分け、それぞれを住宅として販売することで、一人のお客様が購入する面積や総額を調整できます。
一方、NOT A HOTELは、年間に使う日数に応じて所有できる仕組みです。別荘全体を一人で持つことまでは求めていない人にも、購入の選択肢が生まれます。
私なりに整理すると、土地では面積を、NOT A HOTELでは利用時間を分けて、お客様が必要とする単位で届けているのだと思います。
もちろん、NOT A HOTELは宿泊時間だけを販売しているわけではなく、不動産の持分を所有する仕組みです。そのうえで、使う日数を軸に買いやすい単位をつくっている点が興味深いのです。
そして、分けた後も、それぞれの商品に使いやすさや魅力が必要です。
土地なら、道路との関係や敷地の形、暮らしやすい間取りがつくれるか。利用時間を分けるなら、予約の仕組みや建物の維持管理が、所有する人の納得につながるか。
その条件を整える費用まで含めて利益が残るかを考えると、最初の利益率の話にもつながります。
同業のオープンハウスグループが株主であることを、この「分けて届ける」という共通点と重ねて見ると、私にはぐっと身近な事業の話に感じられました。

共同開発は、お互いの強みを知る機会になる
さらに、オープンハウスグループの公式発表によると、両社が共同開発したNOT A HOTEL MINAKAMI「TOJI」が、2025年5月に開業しています。出資だけでなく、実際の開発でも関わっているわけです。
私は、この共同開発にも意味があると思っています。
一緒に事業を進めれば、相手がどのように企画を考え、何を大切にして判断しているのかを、具体的に知る機会が増えます。外から見ているだけでは分からない、お互いのよいところにも気づけるでしょう。
そこで得た気づきを、それぞれが次の企画や事業に生かしていく。共同開発を通じた経験が、両社の今後の事業にも、よい意味で影響してくるのではないかと思います。
当社とは規模が違っても、他社と一緒に仕事をする中で、相手の強みを知り、自分たちの仕事に生かすという姿勢には学ぶところがあります。
高い価値を保つには、費用をかけ続ける必要がある
この事業の持続性を考えると、販売後の運営が気になります。
豪華な建物をつくり、高く売ることができたとしても、その状態を長く保つには費用がかかります。
特徴的な形の建物や大きな窓、プール、温泉。魅力になる設備ほど、清掃や点検、修繕の手間も考えなければなりません。
運営を効率化しようとして、購入時に期待されたサービスまで削ってしまえば、「この価格でも欲しい」と思った理由が弱くなる可能性があります。
逆に、すべてに際限なく費用をかければ、事業として利益を残せません。
私は、価値を維持するために必要なお金と、仕事の進め方を工夫して減らせるお金を、分けて考える必要があると思います。
これは、私たちが建物を企画するときにも同じです。
見た目の印象だけで仕様を決めるのではなく、使う人にとって何が大切か、維持や修繕まで含めてどのような負担になるかを考える。
その積み重ねが、購入後の納得感につながるのではないでしょうか。
先に代金を受け取れる強さと、完成させる責任
動画では、建物が完成する前に代金を受け取る仕組みも取り上げられていました。
開発する側から見ると、先に資金が入ることには大きな意味があります。工事代金などを支払うために、外部から調達する資金の負担を抑えやすくなるからです。
ただし、資金を先に受け取ることと、利益が確定することは違います。
建築費が増えることも、工事に時間がかかることもあり得ます。約束したものを完成させ、利用できる状態にする責任は残ります。
だからこそ、私が見たいのは、販売が順調かどうかに加えて、工程と原価を管理し、約束した品質で引き渡せているかという点です。
高くても完成前に買ってもらえるのは、会社への信頼があるからでしょう。その信頼を、次の完成実績で積み重ねていく必要があります。
選ばれ続けるかを見る、三つの視点
私なりに整理すると、今後は三つの点を見たいと思います。
一つ目は、複数年で見た利益です。
会員権と建物の売上計上の時期を踏まえ、開発が進んだ後も利益が残っているか。さらに、運営に必要な費用を負担しながら、事業を続けられるかです。
二つ目は、購入後の満足です。
新しい物件が売れることに加えて、すでに所有している人が利用を続け、買ってよかったと感じているか。建物の魅力とサービスの両方が保たれているかを見たいと思います。
三つ目は、手放したいときの売りやすさです。
NOT A HOTELには、所有する物件を売買するマーケットプレイスがあります。ただ、売買の仕組みがあることだけで、将来の価格や売却までの期間が分かるわけではありません。
売却にはどのような条件があり、希望する価格で買う人がいるのか。取引がどれくらい積み重なっていくのか。
ここが見えてくるほど、購入を検討する人も判断しやすくなると思います。
私は、この三つがそろって初めて、「高く売れる」から「高くても選ばれ続ける」へ進めるのだと考えています。

現時点の結論
NOT A HOTELの話から私が考えたのは、高い利益率には、その数字が生まれた背景と、高くても選ばれる理由の両方があるということです。
65%という数字を、そのまま将来へ延ばして考えることはできません。
一方で、特定のお客様が強く求めるものをつくり、所有の仕方や購入後の過ごし方まで用意することで、高い価格が成立している点には、学ぶところがあります。
私たちの仕事に引き寄せるなら、土地を仕入れる段階から、誰が、何に価値を感じて購入するのかを考えること。そして、その価値を実現する費用と、事業として残る利益を丁寧に見ていくことです。
土地を分けることと、利用時間を分けること。方法は違っても、お客様が必要とする単位で届けるという発想には共通点があります。オープンハウスグループとは規模が全く違う当社でも、この視点は考えられると思います。
共同開発でお互いの強みを知り、次の事業につなげていくという点にも、今後の可能性を感じています。
そして、濵渦氏が旅の経験を事業へつなげたように、自分が見聞きしたことを、次の企画に生かす姿勢も大切にしたいと感じました。
販売価格の高さだけでは、事業の強さは分かりません。
購入した人が納得し、提供する側にも利益が残り、その関係が長く続く。
私は、そうした不動産をつくれるかどうかを大切にしたいと思っています。




