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不動産仲介市場に迫る地銀参入の波 ― 業界の未来と差別化の鍵

地銀の「不動産仲介」参入が現実味?

業界に迫る競合リスクと、私たちが備えるべき視点を考えてみました。


銀行が不動産仲介を狙う理由

ここ数年、全国地方銀行協会(地銀協)は毎年のように「不動産仲介業への参入」を政府に要望しています。

背景にあるのは、地銀の本業の収益低迷です。

  • 超低金利で利ざやが稼げない

  • 地域人口の減少で融資需要が減少

  • 相続・事業承継で不動産取引が増加

顧客からすれば「融資と不動産をワンストップで相談できる方が便利」なのは確かです。

そのため地銀は、相続・M&A・事業再生の場面で不動産仲介も手掛けたいと強く望んでいます。


信託銀行は仲介OK、なぜ地銀はダメ?

現状、メガバンク傘下の信託銀行は不動産仲介を行っています。

一方で地銀は「銀行法の他業禁止原則」に縛られているため参入できません。

地銀協は、以下の4分野に限定して解禁を求めています。

  1. 事業承継・相続に伴う不動産売買

  2. 事業再生案件に伴う不動産売買

  3. 担保不動産の処分

  4. 自治体の再開発・コンパクトシティ事業関連

つまり、「銀行本来の業務と密接に関わる領域」に限る形です。

これが通れば、私たち不動産業者のフィールドに銀行が部分的に入ってくることになります。


私たち業者が抱く懸念

全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)は、早くから銀行参入に反対してきたようです。

その理由は大きく3つ。

  • 不公平な競争:銀行は預金保険など公的保護を受けながら民業に進出

  • 利益相反:仲介した不動産に自社融資を抱き合わせる可能性

  • 消費者の不利益:選択肢が狭まり、価格競争が起きにくくなる

実際、アメリカでは2009年以降、銀行の不動産仲介・管理業務は恒久的に禁止されました。サブプライム危機で信頼を失った経験が背景にあります。

私たち不動産業者からすれば、地銀の参入は「競合」になるだけでなく、地域の市場構造そのものを変える脅威かもしれません。


金融庁の慎重姿勢

金融庁は現状、「直ちに解禁は難しい」との姿勢を崩していません。

ただし、2021年に銀行法を改正し「地方創生やデジタル化に資する業務」は認められた経緯があります。

不動産は地方創生に直結するテーマであるため、限定的な解禁が将来的にあり得るのは間違いありません。


業界として備えるべきこと

地銀がもし参入してきたらどうなるか?

私たち不動産業者としては、以下の対応が求められると思います。

  1. 専門性の強化
     銀行が不得意とする「地域密着の細かい情報」「生活者目線の提案」で差別化する。

  2. スピードと柔軟性
     銀行は組織が大きく動きが遅い。地元業者は小回りの効く対応で勝負する。

  3. 信頼の可視化
     銀行の“ブランド力”に対抗するために、口コミ・紹介・SNSでの実績発信を強化する。


まとめ:地銀参入は避けられない流れ?

地方銀行の経営環境は厳しく、もはや「融資業務だけ」では持続できません。

不動産仲介は彼らにとって生存戦略であり、規制緩和の動きは今後も続くでしょう。

ただし、安易な解禁はモラルハザードを招きかねません。

業界としては「参入阻止」だけでなく、地銀参入を前提にした自社の強み作りが急務です。

不動産仲介市場は確実に変化の波にさらされています。

このタイミングで「地元の不動産業者だからこそ提供できる価値」を改めて磨くことが、私たちにとって最大の防衛策になるはずです。

著者プロフィール

Lidix

ライディックス株式会社 代表 山上 晶則

東京都で不動産会社を経営しています。
将来的に不動産経済がどうなるかは、あくまでも二次的な要因が大きいため、「国内外の政治経済や金融」、「異業種で成功している事例」などを分析することを得意としています。

このブログでは、現在の経済状況を自分なりに読み解き、時代に合った経営や様々な投資、そして、「何かに依存しない生き方」を求めて日々勉強している内容をアウトプットするために書いています。



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